約 1,746,354 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1117.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 ルイズは夢を見ていた。 幼い日の頃の夢……まぁ、外見だけで言えば未だに幼いと言えるが。 夢の中のルイズは故郷の屋敷の中庭の池、そこに浮かぶ小舟の中にいた。 ルイズは、嫌なことがあると、この小舟に逃げ込むのだった。 その中でじっとしていると、霧がかかっている視界に、 マントを羽織った立派な貴族が現れる。 彼は、幼いルイズより10才は年上だろうか? その男はルイズに近づくと、優しく語りかけた。 「ルイズ、泣いているのかい?」 ルイズは心臓が高鳴るのを感じた。 「子爵様、いらしてたの?」 「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あの話のことでね」 ルイズはそれがなんなのか知っていたので、顔を赤くした。 「子爵様は、行けない人ですわ」 「ルイズ、僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」 いつもと変わらぬ口調……?で、目の前の青年が言った。 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたしにはまだよくわかりません」 ルイズは恥ずかしがりながら言う。帽子の下の顔が笑う。あぁ……この笑顔が……? あれ?この顔は…… 「って、ルージュ?」 「探したよルイズ。こんな所にいたのかい?」 「え、えーと……ルージュこそ、何でこんな所に?」 言うが、答えが返ってくるまえに 遠くから声が聞こえてくる。 「ルージュ、ルイズは見つかったか?」 そういって近づいてきたのはブルーであった。 「ブルーまで、何でここにいるのよ!?」 「俺達だけじゃないが」 「ルイズ、こんな所にいたんだね」 「……アセルスさん?」 いよいよ訳がわからなくなってきた。 だが、更に声が聞こえてくる。 「ルイズ~、こんな所にいたのか?」 「みんな心配してたぞ?」 なにやらツンツンした髪の少年と、 穏和な雰囲気をしている青年が、 よくわからない……ゴーレム?ガーゴイル? とにかく、よくわからないものを連れてやってきた。 「あ、貴方達誰よ!?」 「酷いなルイズ。俺のこと忘れたのか?」 「ちょ、置いてかないでよー!」 後ろから……あれはタバサの使い魔じゃなかったか?が走ってきた。 え?何が起こってるの?何これ? 「あれ?ルイズ、泣いてたのか~? なら俺が歌を歌ってやるよ――」 そこで目が覚めた。 がばと跳ね起き、辺りを見回してみる。あの妙な集団は居ない。 自分の使い魔は床で寝ている。 ……ルイズは呟いた。 「何だったのかしら……今の……」 「ったく、あいつらは何だったってんだい……」 フーケは呟く。片方は自らの全力を込めたゴーレムを剣で切り裂き、 もう片方もとんでも無い剣の腕で、さらに得体の知れない魔法を使ってきた。 疑問に思うが、もはや彼女にとっては関係のないことでもあった。 ここは牢獄である。しかも、これ以上ないほど厳重な。 周囲には結界が張り巡らされ、金属の製品など一つも置いていない。 当然、杖も取り上げられている。もはや、死を待つ身である。 どうでもいい、取り敢えず眠るとするか―― そう考え、ベッドに腰掛けたとき、足音が聞こえてきた。 「おや、あんたは――」 「これで二度目、と言うことになるのかな、『土くれ』よ」 その男は、捕らえられたあの日に、彼女が偶然出会った男である。 黒マントに、長い杖。恐らくメイジなのだろう。ここまでなら、まだ十分あり得る。 だが、白い仮面などしていれば、彼女が妙な格好の男、と評するのもまあ無理はないだろう。 あの夜渡した剣を、杖の反対側に下げている。メイジにしては妙なことだ。 「なんだい?まさかその剣が値打ち物で、 それを恩に助けに来てくれた訳かい?ま、そんなわけ無い――」 「助けに来た、と言ったらどうする?」 「何だって?」 「取り敢えず話を聞きたまえ。 そもそも、あの夜でさえそのためにわざわざ会いに行ったのだ。 我々の組織に雇われてみる気はないか?マチルダ・オブ・サウスゴータ」 フーケは、顔を青くし、驚愕に震える声で問い返す。 「……何者だい?」 それの問いに仮面の男が答えることはなかった。 代わりに続けてくる。 「おまえは優秀なメイジだ。当初は逃亡の援助を切っ掛けにするつもりだったが」 「へぇ?あれは秘密になってるかと思ってたんだがね」 「我々は何処にでもいるのだ」 「……その組織とやらの名前を聞かして貰えるかしら?」 「雇われる気になったのか?」 「まだ決めようがないね。取り敢えず、名前ぐらいは教えてくれても良いんじゃないかい?」 仮面の男は……と言っても、仮面でその口元は見えないが…… その口を開き、言った。 「レコン・キスタ」 ギーシュは剣を振っていた。 あの後女子からフルボッコされた後、 何故かアセルスが謝りに来たので、ちょっと剣の腕を見せて欲しいと言ったのだ。 的としてワルキューレを出し、剣が折れてしまったというので『錬金』で剣を作り出して渡す。 すると、彼女はずいぶんと離れた場所に立って剣を構えた。 準備運動でもするのかと思って見ていたら、素振りをしたらワルキューレが切れた。 ( ゚д゚) (つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚) (つд⊂)ゴシゴシ _, ._ (;゚ Д゚) ……えぇー!?ちょ、何したの!? 実はメイジ!?かと思ったけど、杖持ってないよね…… じゃあ純粋に剣でやってるよね…… あまりに驚いたので彼女に何をやったのか聞いてみると、こう返ってきた。 「え?慣れれば誰でも出来るって。皆伝技だよ?」 いや、そんなもの慣れた程度でやられたらメイジの立場がないよ! まぁ、とにかくこんなものを見せられた後に 魔法の絶対性を信じろって方が無理があります。 そんなわけで、ギーシュは余り慣れない剣を振っているのであった。 「しかし、やはり剣を使うのは合わないんじゃ無かろうか」 自分に出来ることを考えてみるが、 錬金と、ゴーレム。 ゴーレムはああもあっさり切り裂かれると自信がなくなってくる。 錬金はそもそも実戦で役に立つのか?………… \ __ / _ (m) _ |ミ| / `´ \ 「……今なんか来たような」 ところで、そのアセルスはと言うと。キュルケと対峙していた。 理由とは、取り巻きと化した女子生徒達にあることを聞いたのが切っ掛けである。 「ねぇ、あの青い髪の子、なんて言うの?」 「青い髪?……タバサの事ですか?」 「それがどうかされましたか?」 「いや、可愛いなと思っ――」 突如、赤い人影が疾走する。 それはアセルスに向かって駆け抜けると、途中で跳び、 両足を前に突き出し、助走と跳躍の勢いをその両足に乗せた。 ライダーキック? まあとにかく、ジャストヒット。 半妖様吹っ飛ぶ。取り巻きが何か叫んでるが、まぁこれは大して関係ない。 「な、いきなり何をするんだ?」 「危ない人を蹴り飛ばしただけよッ!」 「私の何処が――」 「タバサがなんて言ってた?」 「いや、可愛いなって――」 「どう見ても危ない人じゃない!」 キュルケがなにやら凄い気迫なので、周りの取り巻きも黙り込む。 だが、それでも平然としていた半妖様は、少し考え込むとキュルケを見て呟く。 「そうか……」 「何よ?」 「君もタバサを」 「あたしにそっちの気は無いわよ! ただ純粋に友人として危惧しているのよ!」 「何を?」 「あなたの行動をよ」 「大丈夫、ちゃんと幸せに――」 「殺してでも止めるわ」 このアセルス、半妖と言うよりは3/4妖ぐらいじゃなかろうか。 とにかく、ここにキュルケとアセルスの敵対関係が成立した。 教室のドアが開き、ミスタ・ギトーが表れる。 長い黒髪に、漆黒のマントを纏ったその姿は不気味で、 若いのに生徒達からは不人気であった。今は違う。 彼が口を開く。 「では授業を始める。私の二つ名は――」 「言う必要はありませんよ、ギトー先生」 「……知っているのかね?」 「ええ、『出戻り』のギトーと言ったら、もう有名です」 主に、笑いものとして人気であった。 ギトーが格好に似合わず顔を赤くして叫び返す。 「私の二つ名は『疾風』だっ!『疾風』のギトー!」 「『湿布』?ゴーレムに殴られて打撲でもしたんですか?」 生徒達が笑う。ギトーが黙り込んでも、その笑いは止まらなかった。 が、ギトーがある言葉を言う。 「所で私は最近雷を作り出す魔法を練習しているのだが、 ……失敗して何処に飛ぶか解らんが、ここで一つ披露してもいいかね?」 黙り込む。笑われているが、メイジとしてのギトーの実力は確かである。 「よろしい。それでは、最強の系統は知っているかね?えーと……そうだな……そこの君」 そう言って、ブルーを指さす。 ブルーは何故俺が?と思いはしたが、取り敢えず思ったことを言う事にした。 「最強とか……中学生か?」 キングダムって中学校あるのかな? シュライクあたりはありそうだけど。 「…………仮定の上での話をしているんだ」 いちいち引っかかる……?言い方で話すギトーに、ブルーは更に続ける。 「ならその仮定は何だ?状況は?相手は?そしてその数は?味方は?」 「え、えーと……とにかく、最強は『風』なのだ!」 ギトーは過程をすっ飛ばした。 そして、続けて言う。 「試しに、君の得意とする魔法を私にぶつけてきたまえ」 ブルーは無言で『剣』を取り出す。 「……そう言えば、君はメイジではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔だったか。 まぁかまわん。それを投げてみたまえ」 ブルーは言われたとおり、『剣』を飛ばす。 ギトーがそれを見て詠唱を始めたあたりで、ボソッと呟く。 「『タイムリープ』」 『剣』がギトーの横を通り抜ける。 どすっとかいかにも物に何かが刺さったような音がした。 教室が沈黙に包まれる。どこからか失笑が漏れる。 「……それでは『風』が最強たる所以を見せてあげよう!」 ギトーは無かったことにした。 杖をたて、唱え始める。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 流石に『サイキックプリズン』はやり過ぎか、と思いつつも考慮していると、 扉を開けて妙な格好のコルベールが表れた。 ロールした金髪のカツラを乗っけている。 ローブは普段よりも飾り立てられた物であった。 その様子を疑問に思いつつ観察すると、コルベールが叫ぶ。 「ミスタ・ギトー!失礼しますぞ! えー、今日の授業は全て中止であります!」 教室中から歓声が上がる。 ……一番大きな声を上げていたのはギトーだったような気がするが。 そんなに辛かったのか?が、調子を取り戻すとギトーは聞いた。 「しかし何でですか?ミスタ・コルベール」 「そうですぞ!それを伝えに来たのです」 コルベールがそう言い、勢いよく生徒達の方を振り向くと、その回転の勢いでカツラがずれる。 ギトーのおかげで愉快な空気だった生徒達は、笑った。 コルベールはカツラを元に戻すと、静かな声で言う。 「黙れ」 一気に空気が氷点下へ。 ある意味これって教師の鏡じゃね? コルベールは咳払いをして、調子を元に戻すと言う。 「こほん。皆さん!本日はトリステイン魔法学院にとって良き日であります。 始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」 調子を戻したものの、生徒達は黙り込んだままであった。 コルベールが少々焦りながらも続ける。 「……恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインの誇る可憐な一輪の花、 アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸されます」 教室が流石にざわめいた。 「従って、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて式典の準備を行います。 そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること!」 生徒達は頷いた。 その後は、いつもよりあわただしい時間となる。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9100.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十一話「体温3000度の対決」 超高熱怪獣ソドム 登場 ハルケギニアの世界にやってきた春奈を学院にかくまってから、早三日目。既に昨日、 ダダとギギのタッグが学院に乗り込んでくるなどと、ルイズと才人の周囲には波乱が起こっている。 そして今日もまた、新たな異常事態が彼らを襲っていた。 「あ~……あちぃ~……あちぃよぉ~……」 「暑い暑い言ってるんじゃないわよ……。余計暑くなるでしょ……」 「そうは言われても、暑いもんは暑いんだよ……」 ルイズの部屋では、インナー姿の才人が汗だくで「暑い」と連呼するのを、同じように 汗だくで下着姿になっているルイズが咎めた。普段は日中からはしたない姿を晒すことなど 貴族のプライドが許さないのだが、部屋の気温は彼女の強固な矜持を溶かすほどであった。 その日、魔法学院は、夏にはまだ早いにも関わらず猛烈な暑さに襲われていた。 ルイズが才人に尋ねかける。 「今、何度?」 「36.5度」 「それ、あんたの体温じゃないの?」 「この部屋だよ。外は普通だってのに、何でこの学院だけ、いきなりこんな暑くなったんだ!?」 あまりの暑さに苛立った才人がウガー! と叫ぶと、デルフリンガーがぼやいた。 「この程度の気温の変化に参るなんて、人間ってのは不便なもんだね」 「デルフ、お前は平気なのかよ?」 「俺っちは剣だからな。鉄が溶けるような温度でもなきゃヘッチャラなんだよ」 「今だけは、あんたが羨ましいわね……」 うなだれたルイズが思わずつぶやいた。すっかりダラ~となっているルイズと才人に、 デルフリンガーが告げる。 「お前さんらより、そこで寝てる嬢ちゃんの方が辛いんじゃねぇの?」 「あッ、そうだった! 春奈、大丈夫か? 脱水症状起こしてないよな?」 我に返った才人は、慌ててベッドで寝ている春奈の側へ駆け寄っていった。それを目にして、 ルイズがムッとなる。 (もうッ、面白くない! わたしの使い魔のくせに、ハルナのことばかり気に掛けて! あの娘は、 もうどこも悪くないってのに!) 春奈が仮病を使っていることは、シエスタから聞いた。それを利用して才人の気を引いている 春奈には苛立ちを覚えるが、今は怒りを示す気力も湧いてこない。それほど暑い。 (ハルナには仮病を白状してもらいたいけど、今は先に、この暑さをどうにかしてもらいたいわね……) あまりの暑さのせいで、授業は急遽全て休講。教師たちは総出で、異常な高温の原因を調べている。 それまで、多くの生徒は学院の外へ避難しているが、ルイズたちは春奈がいるので、この場から いなくなる訳にはいかなかった。 早く原因を突き止めて、気温を元に戻してもらいたい。ルイズは切に願っていた。 「春奈、大丈夫か? ……うわ、すごい汗だ! まぁ、当たり前か……」 春奈の容態をひと目見た才人は、彼女が自分たち以上に発汗していることに驚愕した。 だが無理のないことだ。ただでさえ高温の室内で、厚手の布団が掛かっているのだから。 「うッ……うーん……み、水……」 「水か? 分かった!」 苦しそうな春奈のうめきで、才人がコップに水を注いで彼女に飲ませる。だが、その途端に 春奈は咳き込んだ。 「ゴホッ、ゴホッ!」 「春奈!? うわッ、お湯になってるじゃねぇか!」 暑さのあまり、水は熱湯に変わっていたのだ。 「クソッ! 春奈は安静にしてなきゃいけないのに……こんな暑さじゃ、春奈の身体に障る! 早くどうにかならないのか……!」 才人は大きく舌打ちして、事態の早急な解決を願った。才人が春奈のことばかり気にして 自分には目もくれないので、ルイズはますます苛立ちを募らせる。 そうしていると、才人の願いが天に届いたのか、状況を確認しに出ていたシエスタが戻ってきて、 一番に告げた。 「サイトさん、ミス・ヴァリエール! 教師の皆様が、この暑さの原因を突き止めました!」 「本当!?」 「やった! その原因って何だ? 教えてくれ!」 ルイズと才人が飛び起きると、シエスタはこう話す。 「それが何と、学院の真下、地下倉庫に怪獣が張りついてたんです!」 「怪獣!?」 まさかの原因に声を荒げるルイズたち。それから、ルイズが聞き返す。 「でも、怪獣とこの暑さがどう関係するの?」 その疑問には、シエスタは次のように説明した。 「その怪獣なんですが……体温が異常に高いみたいなんです。推定体温は、何と2500度!」 「2500度!?」 とんでもない数値に、ルイズも才人も目を見張った。 「その熱が地下倉庫から学院全体に伝わって、こんな猛暑になってるそうなんです……」 シエスタが額に浮かぶ汗をぬぐいながら伝えた。こんな時でも暑苦しいメイド服を着ているので、 才人やルイズ以上に苦しそうだ。才人はシエスタの苦労を労う。 「ありがとう、シエスタ。けど、2500度も体温のある怪獣なんてな。どんな奴なんだろう……」 才人が怪獣の正体を推測する。人間の常識を超越した怪獣といえども、そこまで高温なものは そうそういるものではない。灼熱怪獣ザンボラーか、二日前に出現したグランゴンだろうか? 「それで、先生たちはどうするつもりなのか分かる?」 ルイズが対策を問いかけると、シエスタはしっかりを調べていた。 「幸い怪獣に暴れる気配はないみたいなので、水系統の教師が中心となって、水の魔法を 浴びせて追い払う作戦が立てられました」 「なるほど。相手が熱いなら冷やせばいいって訳ね」 納得したルイズは、ひと際大きなため息を吐く。 「早いところ、追っ払ってほしいわ。こうしてるだけでも、溶けちゃいそう……」 「直に作戦が実行されるはずですけど……」 などと話していたら、急に学院全体が激しい揺れに襲われた。ルイズたちは思わずよろめく。 「きゃッ!?」 「始まったみたいです!」 「わっとッ! 春奈、大丈夫か!?」 才人は真っ先に春奈のことを案じた。そのことで、ルイズとシエスタは同時にムッと顔をしかめる。 だがすぐに他のことに気を引きつけられることになる。窓から一望できる、学院を取り囲む 平原の一箇所から、巨大怪獣が土を吹き飛ばして這い出てきたのだ。 「キギョ―――――オォウ!」 四足歩行の、ゴルゴスのような岩石質の肌を持ちながら、表面が赤く熱せられているという、 見るからに熱い怪獣の出現により、ルイズたちを一層の熱波が襲った。ルイズが思わず叫ぶ。 「あっつ!? 遠くにいるのに、ここまで熱が伝わってくるわ! あいつが犯人で間違いないわね……!」 「あいつは……超高熱怪獣ソドムっていうのか……!」 才人がすぐに携帯端末で怪獣の情報を調べた。するとルイズが尋ねかける。 「サイト、あれがどういう怪獣なのか、もっと分からないの? もしあいつが凶暴な性質だったら、 学院が危ないわよ」 それに、才人は否定を返した。 「残念だけど、名前と、体温がすごく高いってことぐらいしか載ってねぇや」 ソドムは、本来M78ワールドの怪獣ではない。ティガやダイナの故郷、ネオフロンティアスペースの 地球に生息する怪獣だ。ギャラクシークライシスという様々な宇宙の怪獣が多数召喚される事件によって M78ワールドでも存在が観測されたが、そういう怪獣は生憎と情報が少ないのであった。 「そう。でもまぁ、さっきまで大人しくしてたみたいだし、凶暴じゃないみたいだけど……」 ルイズがそうつぶやいた矢先に、ソドムはそれを裏切るかのように活動を始めた。 「キギョ―――――オォウ!」 急に大きく口を開くと、そこから猛烈な火炎を吐き出したのだ! 火炎は学院の方向へと 飛んできて、直撃はしなかったものの校舎全体が高熱に晒される。 「きゃあぁッ! 攻撃してきたわ!」 「魔法攻撃を受けて、怒ってるんでしょうか……?」 思わず悲鳴を上げるルイズたち。そして火炎を吐いたソドムは、ドスドスと激しく足音を 鳴らして学院へと一直線に向かい始める。 「こ、こっちに来るわよ!」 窓から覗く光景の中では、地下から慌てて地上へ上がってきた教師たちが、ソドムの接近を 阻止しようと魔法攻撃を飛ばし始める。だが体温の高すぎるソドムの周囲は灼熱地獄なので、 近づくことすらままならず、遠くからでしか攻撃できない。そして、大きく距離を開けた位置から 飛ばす魔法では、ソドムにとっては豆鉄砲に等しい威力しか出ないようで、まるで足を止めることは 叶わなかった。 「このままじゃ、学院が危ないわ! サイト……!」 「あぁ!」 ルイズの目配せを受けた才人がうなずいて、部屋を飛び出そうとする。ゼロに変身して ソドムに立ち向かおうというのだ。 「ま、待って平賀くん! どこに行くの!?」 それを、事情を知らない春奈が即座に呼び止めた。才人は彼女に振り返ると、短く告げる。 「春奈、俺たちがどうにかしてあいつを食い止める。お前はここで待っててくれ」 「ほ、本気!? 危険だよ!」 血相を抱える春奈だが、才人は安心させるように笑いかけた。 「誰かがやらないといけないんだ。何、心配ないって。危なくなったら、きっとウルトラマンゼロが 来てくれるからな。それじゃ!」 「あ、待って……!」 もう話している時間はないとばかりに、才人がルイズとともに飛び出していくのを春奈が 追いかけようとしたが、それをシエスタに止められる。 「ハルナさんは、ご病気なのでしょう? 安静にしてないとダメじゃないですか」 「うッ……」 こんな時にシエスタからとげとげしく言われて、春奈は仕方なく浮かしかけた腰を下ろした。 そして、ルイズと才人が出ていった扉を、羨ましそうに見つめた。 学院の上空では、シルフィードに跨ったタバサとキュルケが、教師たちがソドムの進撃を 止めようとして、無駄な抵抗に終わっている構図を見下ろしていた。 「ちょっと、これまずいんじゃない? どうしてこう、立て続けに学院の危機が相次ぐのかしら」 キュルケが焦った様子でつぶやく前では、タバサがソドムの容姿を観察して独白する。 「……間違いない。あれは、伝説の火竜山脈の古代竜。古文書に描かれた姿にそっくり……」 「え? タバサ、あの怪獣を知ってるの?」 キュルケが驚いて聞くと、タバサはコクリと頷いた。 「地元の伝説では、火の精霊の怒りを静め、火山の噴火から人々を救うと云われている」 その説明に、キュルケは疑わしそうに顔をしかめた。 「それ本当? 今の状況と真逆じゃない。それに、どうして火竜山脈の竜がこんな場所にいるのよ」 「そこまでは分からない。伝説は、伝説でしかないから、間違っていることも考えられる」 正直に答えるタバサ。 「そう。まぁそれは置いといて、今は現実の状況よね。こういうピンチの時は、いつも彼が 来てくれるんだけど……」 キュルケが噂をすると、果たして青と赤の光がどこからともなくソドムの眼前に降りていき、 それがウルトラマンゼロの姿になった。 「やっぱり! 今回も来てくれたわね。ゼロー! そんな怪獣やっつけちゃってー!」 キュルケが黄色い声を出して、ゼロの応援をした。 「キギョ―――――オォウ!」 『ソドム! 何が目的かは知らねぇが、ここから先には行かせねぇぞ!』 才人が変身したゼロは、すぐさまソドムに飛び掛かっていき、身体を掴んで足を止めようとする。が、 『!? あぢぃッ!』 ソドムの体表に触れた途端に手の平が焼け、思わず手を離した。体温が2500度もあるソドムの皮膚は、 焼けた鉄板そのもの。如何にウルトラマンゼロといえども、触って無事では済まなかった。 「キギョ―――――オォウ!」 ソドムは離れたゼロに火炎を吐きつける。もろに浴びたゼロは、後ろへ大きく吹っ飛ばされた。 『うぐあぁッ!』 「キギョ―――――オォウ!」 更にソドムは、滅茶苦茶な方向に火炎を連発し出す。火炎の一部は学院の方にも飛んでいき、 教師たちやシルフィードが慌てて退避した。 『この……! 何つぅ暴れん坊だ! これでも食らいな!』 ゼロはまず、ソドムから熱を奪うために、手の平を合わせて大量の水を放出し始めた。 ウルトラ水流。ウルトラ一族の技の中では比較的ポピュラーなもので、類する技を 多くの戦士が使用している。 「キギョ―――――オォウ!」 ウルトラ水流はソドムに頭から降りかかる。それによって水が蒸発して水蒸気になり、 気化熱によってソドムの体温を下げていく。 『よしよし、上手く行ってるぜ。この調子だ!』 狙い通りになっていることに満足げに頷くゼロだが、異変はすぐに発生した。 「キギョ―――――オォウ!」 『何!? 体温が逆に上がってくだと!? どうなってるんだ!?』 ゼロの超感覚が、当初は順調に熱を下げたソドムが、突如ぶり返したばかりか先ほどよりも 更に高い熱を発するようになったことを捉えた。その体温、約3000度。あまりの熱に、 水蒸気の中に巨大なソドムの虚像が浮かび上がるという蜃気楼現象まで発生した。 「キギョ―――――オォウ!」 『ぐおおぉぉッ!』 体温を3000度まで上げたソドムは、またゼロに火炎を浴びせた。それにより水流が止められる。 ゼロをひるませると、ソドムはより激しく火炎をまき散らし出した。 『くっそぉッ! もう勘弁ならねぇぜ! シェアッ!』 「キギョ―――――オォウ!」 頭に来たゼロは、肉弾戦に切り替えてソドムを叩きのめし出す。ソドムの身のこなしは鈍く、 ゼロパンチにキックが簡単に追い詰める。 『ぐッ……! やっぱ熱い……!』 しかし一瞬触れるだけでも、ゼロの肌は熱で傷つけられる。打ち込めば打ち込むほどゼロも 追い詰められていく。 「キギョ―――――オォウ!」 『うわッ!』 そしてソドムは、殴打を食らう最中も口から火炎を吐く。その熱でも、ゼロはジリジリ 苦しめられていき、カラータイマーを鳴らせ始めた。 ゼロの苦闘を、学院の城壁の外からながめるルイズは、杖を抜いて『爆発』を使用する準備を整えていた。 「ゼロ、危なくなったら、わたしの『虚無』でそいつを吹っ飛ばすわ……!」 ルイズの部屋からは、シエスタと春奈も戦いの行方を、固唾を呑んで見守っていた。 「ウルトラマンゼロ、負けないで……!」 シエスタは静かにゼロの応援をするが……春奈はソドムの方に目をやって、ある疑問を抱いた。 「あの怪獣、何か変……。まさか……!」 そして一つの仮説を立てたところで、ゼロが巻き返し始めた。それで喜ぶシエスタと対照的に焦る。 「駄目……! 止めなきゃ……!」 とつぶやいた春奈は、反射的に窓から身を乗り出し、ゼロへと力一杯に叫んだ。 「ウルトラマンゼロ! やめてッ!!」 「ハルナさん!?」 病に伏せっているということになっている春奈が、こんな行動に出たことに、シエスタは 思わず目を見張った。 窓から身を出して叫んだ春奈の姿を、キュルケとタバサがしっかりと確認する。 「あら? あの娘、一体誰かしら? あそこは確か、ルイズの部屋よね」 「……昨日も見たような……」 タバサは、窓からシエスタが落下した際に、一瞬だけ春奈の姿を確認したことを思い返した。 『こいつでフィニッシュだッ!』 ゼロは突き飛ばしたソドムに、とどめのワイドゼロショットをお見舞いしようとする寸前だった。 そこに、春奈の制止の声が掛かる。 「ウルトラマンゼロ! やめてッ!!」 『春奈?』 遠く離れているが、ゼロの超感覚は春奈の叫び声を聞き止めていた。振り返ると、春奈が 続けて叫ぶ。 「その怪獣、きっと風邪ひいてるのよ!」 『は? 怪獣が……風邪ぇ!?』 突飛なひと言に仰天したゼロは、ソドムを改めて観察する。叩きのめされたソドムはまだ ゴホッゴホッと火炎を吐いているが、その勢いはすっかり弱まり、白い煙に変わっている。 「ほら! その証拠に、咳き込んでる! 風邪で苦しんでるだけなんだって!」 『い、言われてみれば……』 冷静になったゼロは、ソドムの不可解な行動を思い返し、風邪という理由なら説明がつくことに 気がついた。水を浴びせて逆に体温を上げたのは、冷水を浴びて風邪をこじらせてしまったから。 火炎をまき散らしていたのは、あれがソドムのくしゃみなのだ。動きが鈍いのではなく、風邪で 弱っているのだろう。 そして実際に春奈の仮説は的中しており、このソドムは風邪引きなのだった。ソドムは 火山地帯の熱い地下に住まう怪獣で、マグマによって作られた変成岩を食料としている。 ソドムが変成岩を食べて横穴が出来、そこにマグマが流れ込むことで、火山の噴火の原因の マグマの圧力が下がる。これが火の精霊の怒りを鎮めるという伝説につながったのだが、 このソドムは変成岩を食べている内に魔法学院の地下へと迷い込み、ソドムからしたら 寒すぎる環境のせいで風邪に罹ってしまったということなのだった。ネオフロンティアスペースの ソドムも、似たような状況で風邪を引き、スーパーGUTS基地を灼熱地獄に追い込んだのであった。 『怒りに我を忘れてて、真実に気づけなかった……。俺もまだまだ未熟だな……』 悪意のない怪獣を叩きのめしてしまったことを、ゼロは深く反省した。そこにシルフィードが そっと近づいてきて、乗っているタバサが教える。 「ゼロ、その怪獣は火竜山脈が生息域。そこに返してあげて。それで解決する」 「ジュワッ!」 タバサに頷いたゼロは、ルナミラクルゼロに変身。超能力に特化した形態による念動力で、 すっかり大人しくなったソドムの巨体を持ち上げた。 「デュワッ!」 ゼロはそのまま空を飛び、魔法学院からはるか彼方、ガリアとロマリアの国境まで一気に飛んでいった。 そこが火竜山脈。ゼロはその中の火山に目をつけると、上空からソドムを火口へとゆっくり下ろす。 『すまなかったな、ソドム。本来の生活場所で、ゆっくり養生しろよ』 「キギョ―――――オォウ!」 運ばれたソドムは、ゼロにお辞儀をするかのように頭を下げた後、火口の中に飛び込んで 溶岩の中に姿を消した。 それを見届けたゼロは反転し、魔法学院へと帰っていった。 「えぇッ!? 春奈、仮病だったのか!?」 ソドムの一件が解決した直後、ルイズの部屋に戻った才人は、寝巻きから制服に着替えた春奈から、 こちら側の真実を伝えられた。全く気づいていなかった才人は驚愕して目をひん剥いた。 「うん。ごめんね、平賀くん……」 「でも、何で仮病なんて……」 才人が聞き返すと、春奈は申し訳なさそうに目を伏せた。 「最初は本当に具合が悪かったんだけど、平賀くんが優しくしてくれるから、ついそれに 甘えちゃったの……」 「つい、じゃないわよ! お陰でこっちは迷惑したわ!」 ルイズがぷりぷり怒ると、才人はルイズと春奈の間に割って入って、春奈を弁護した。 「ルイズ、そんなに怒らなくてもいいだろ。春奈も、反省したからこうやって話してくれたんだ」 「サイト! あなた、騙されてたのよ。それなのに、何でまだかばうのよ!」 まだおかんむりのルイズが問い返すと、才人は春奈を一瞥してから、こう語った。 「だって、春奈は突然見知らぬ世界に放り込まれて、すごく心細い思いをしたんだぜ? 今まで 見たことのない景色の中で、自分を知ってる奴が誰もいない。そんな状況で、ようやく知り合いに 巡り合えたんだ。そりゃ、頼りたくなっても仕方ないだろ。同じく知らない世界にいきなり 放り出された俺は、その気持ちがよく分かる」 「うッ……」 真剣な面持ちの才人の言葉に、ルイズは怒りが揺らぐ。 「そりゃ、春奈のやったことが褒められないことだというのは分かる。だから、春奈が謝ってるんだ。 許してやってくれないか?」 才人の弁護で、シエスタは頬を緩ませる。 「……分かりました。サイトさんの言う通りかもしれません。ハルナさんの件は、もう水に流します」 才人がルイズに視線をやると、ルイズも頬を赤く染めてそっぽを向いた。 「わ、分かったわよ、もうッ! わたしも、ハルナのことを許すわ。それでいいんでしょ!?」 「二人とも、ごめんなさい。そして、ありがとう……」 許しを得た春奈は、ルイズとシエスタに深々と頭を垂れた。すると才人が、彼女にふと問いかける。 「でも春奈、急にどうして本当のことを話してくれるつもりになったんだ?」 それに春奈は、次のように答えた。 「さっきの怪獣を見てて、思ったの。仮病で甘えてるのは楽だけど、それが周りに迷惑を掛けてる。 それじゃいけないって。それに、本当に病気で苦しんでる人に悪いしね」 「ああ、そうだな。仮病なんてするもんじゃない。健康が一番だ」 「それと、もう一つ……」 「?」 「病気でいるより、健康でいる方が、平賀くんと一緒にいれるって思ったから」 「えッ……」 そのひと言で、才人はドキリとさせられた。その様子を目ざとく見咎めて、ルイズとシエスタは またも機嫌を悪化させた。 「……仮病が分かっても、結局ハルナに構うんじゃない!」 「そうですね……。これはうかうかしてられませんね……」 仮病は暴かれたが、結局は春奈に嫉妬心と対抗心を燃やす二人なのであった。 仮病の一件は綺麗に片がついたのだが、ソドムの騒動は一つ、後日談を残していった。 「サイト……今、何度?」 「41.5度。お前は?」 「わたしは40度ちょうどよ……へっくしッ!」 ベッドの上で布団にくるまっているルイズと才人が、ガタガタ震えながら言葉を交わした。 それから二人して、大きなくしゃみを出す。 ソドムが去ったことで、学院は元の気温を取り戻したのだが、すさまじく暑かった状態から 一気に気温が下がったので、学院のほとんどの人間はその温度差で体調を崩し、風邪を引いてしまったのだ。 ソドムがくしゃみと咳で風邪菌をまき散らしたのも悪かったのかもしれない。 「悪意がなくても……いなくなった後まで迷惑な怪獣だったじゃない……へくしッ!」 「今更言っても仕方ねぇよ……はっくしぃッ!」 「平賀くん、大丈夫? はい、お水」 シエスタまで伏せったので、春奈が才人に水を注いだコップを手渡した。彼女は事前に 病気に罹って免疫をつけたのか、数少ない無事な人間になったのだ。 「悪いな、俺たちの面倒なんか見させちゃって……」 「いいの。これくらいしないと、罪滅ぼしにならないだろうし。何より、こんな私でも平賀くんの 力になれるんだもの。こう言うと悪いかもしれないけど、何だか嬉しい……」 「春奈……」 「ちょっとぉ! 罪滅ぼしなら、こっちも構いなさいよ! うッ、ゴホゴホッ……!」 何だかいい雰囲気になる才人と春奈に怒鳴ったルイズが、大声を出したことで思わず咳き込んだ。 「なーにやってんだか」 そんなルイズの様子に、デルフリンガーが今日もまた呆れ返った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9054.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十七話「タルブ村の宝物」 黄金怪獣ゴルドン 登場 アルビオンからの帰還後、ルイズと才人はキュルケに誘われて、宝探しの旅につき合うことになった。 しかしどれだけ危険を冒そうと、見つかるのはガラクタばかり。嫌気が差してきたところで、 キュルケは次を最後にするという。その対象はタルブ村の『竜の羽衣』というお宝。それは、何の巡り合わせか、 シエスタの祖父がタルブ村にもたらしたものなのだという。 だが一行が訪問した時には、タルブ村は壊滅状態に陥っていた。近くの山に怪獣ゴルドンが棲みつき、 餌の黄金を探しに行く際の通り道にされたことで、村が蹂躙されてしまったのだった。 こうなっては『竜の羽衣』どころではない。キュルケはタルブ村を救うために、 自分たちでゴルドンを誘き出すことを提案した。そしてルイズたちは、彼女に押し切られる形で、 ゴルドンの巣穴を探しにシルフィードに跨って飛び立った……。 「見て、あそこ。あんなに大きな穴が開いてる。あそこが巣穴に違いないわよ」 タルブ村から飛び立ち、ゴルドンが棲みついているという山まで飛んできた一行は、 案外あっさりとゴルドンの巣穴らしき穴を発見した。何せ山のふもとに、大空洞といっても 差しつかえないほどの大きな穴が開いているのだ。あまりに目立つので、見逃すのが難しいほどだった。 「あれだけの大きさなら、シルフィードに乗ったまま中に入れるわね」 「むしろ、降りて入らなくちゃいけないんだったら、僕は帰るところだったよ。自分の足で 怪獣から逃げるような危険な真似は、絶対したくない」 キュルケのひと言で、ギーシュが情けないため息を吐いた。 穴は翼を広げたシルフィードが五匹横並びになっても、まだ十分な余裕があるほど広かった。 まぁ、40メイル級の巨大怪獣が掘ったのだから、それで当たり前なのかもしれないが。 「ねぇ、入るといっても、どっちの穴に入るの?」 ここでルイズがそんな質問をする。何故なら、彼らの見下ろす先にある穴は、二箇所あるからだ。 「ていうか、何で二つもあるのよ」 「別に巣の入り口が一つだけって決まってる訳じゃないでしょ。どっちに入っても、同じ場所に 通じてるんじゃない? だからどっちでも同じよ、きっと」 ルイズの疑問に、キュルケは適当に答えた。 「そんないい加減な……これから危険を冒すんだから、もっとよく考えた方が……」 「考えたって何も変わらないわよ。さッ、タバサ、シルフィードに穴に潜るよう指示して」 ルイズの意見を無視して、キュルケが頼む。それを受けたタバサの命令で、シルフィードが 斜め下に降下して穴の中に突入した。 「大丈夫かしら……?」 ルイズの懸念を置いて、シルフィードが進む。キュルケ、タバサ、ギーシュの三人掛かりの『ライト』で、 広大な穴の中が照らされて、巣穴のどこかにいるはずの怪獣ゴルドンの姿を探す。 しばらくは、誰もが緊張した面持ちで黙ったままでいる時間が続いた。しかしその内に、 彼らの目に土肌ではない、魔法の光を反射して煌びやかに輝く何かが映った。 「止まって!」 すぐにタバサはシルフィードを急停止させる。そして視界に映ったものの全貌が、一行の前に露わになった。 「間違いない。こいつがゴルドンだ……!」 才人が言い放つ。彼らの前に横たわっているのは、黄金色の肌を持つ、才人が写真で見たものと 寸分も違わぬ巨大怪獣、ゴルドンだった。 しかし今は熟睡して、いびきを立てている。一行がやってきたのにも気づいてない様子だ。 巨大生物のいびきなので音量もそれに見合うほどのものがあり、キュルケやルイズは思わず耳をふさいだ。 「こいつがタルブ村を滅茶苦茶にした奴なのね……。こんな呑気に眠り込んでるなんて、 腹立たしいわ……!」 ルイズがいら立ちまぎれにつぶやいた。ゴルドンは野生の怪獣なので、タルブ村を踏みにじったことに 罪悪感すら覚えていないのだろう。しかしタルブ村の住人の絶望した表情を思い返すと、 のんびり眠りこけている姿に怒りが湧いてくる。 「でも寝てるんじゃ、誘き出すことなんて出来ないわ。叩き起こしましょう」 「し、慎重にやってくれたまえよ!」 杖を向けるキュルケに、血相を抱えたギーシュが懇願した。 「分かってるって。『ファイアー・ボール』!」 本当に分かっているのか、キュルケは本気の火球を撃ち込んだ。だが体表で火球が炸裂しても、 ゴルドンは目を開ける気配すら見せなかった。寝転がったまま、先がハサミのように二又に分かれた 長い尻尾を鬱陶しそうに振ってきたので、シルフィードは慌てて後退した。丸で羽虫を追い払うかのような素振りだ。 「あ、あいつ……! たかが野獣のくせに、わたしたちをハエ扱い!? あったま来た!」 この所作に、貴族らしくプライドが高いルイズが激昂した。杖を抜くと、先端を寝そべったまま 動こうとしないゴルドンに向けて呪文を唱える。 「『ファイアー・ボール』!」 キュルケと同じ呪文だが、火球は飛び出ず、爆発がゴルドンの側面に発生する。その威力は、 火球の炸裂の何倍もあった。 「キョーキョキョキョキョ!」 今度ばかりはたまらず、ゴルドンは飛び起きた。そしてギロリとルイズたちをにらみつけると、 身体の向きを変えてシルフィードに向かってきた! 「! シルフィード!」 「きゅい! きゅいー!」 タバサが急いで指示を出すと、シルフィードはクルリと反転し、元来た道を引き返し出した。 ゴルドンは逃げるシルフィードを追いかけてくる。 「キョーキョキョキョキョ!」 「うわあぁぁ! 何てことをしてくれたんだねルイズ! 怒らせてしまったじゃないか!」 「け、結果オーライって奴よ! 元々こうやって地上に誘き出す予定だったじゃない!」 パニックになったギーシュが非難すると、ルイズは開き直った。 しかし実際、事態はさほど悪くはなかった。ゴルドンは鉱物の金を食べているからかどうかは定かではないが、 移動速度は大して速くはなかった。シルフィードが追いつかれるようなスピードは出せないようだ。 しかも怒りで我を忘れているようなので、地上に誘導されていることにも気づいてない様子だった。 「いい調子だわ。地上に出たら、みんなで精一杯声を張り上げてウルトラマンゼロを呼びましょう」 キュルケは己の立てた計画が順調に進んでいることに気を良くした。だが巣穴の途中で、 ゴルドンの動きに変化が起こった。 「キョーキョキョキョキョ!」 急に追いかけるのをやめて、首を振ってけたたましく鳴き声を出し続けたのだ。 「ちょっと、止まっちゃったわよ! ちゃんと追ってきてくれなきゃ困るじゃない! ルイズ、 もう一発ぶちかましてやりなさいよ」 ゴルドンに合わせてシルフィードも停止すると、キュルケがルイズをけしかけようとした。 その一方で、タバサはゴルドンの行動の変化に、悪寒を覚える。 「まさか……」 そして彼女の感じた悪い予感は、直後に的中したことが明らかになった。 「キョーキョキョキョキョキョ!」 シルフィードの背後、つまり地上側の地面がいきなり下から爆発したかのように弾け、 ゴルドンが這い出てきたのだ! 「えっ!!? 嘘!?」 これに目を見張る一同。何故なら、ゴルドンは既に、彼らの前方にいるからである。 ここで、ルイズたちが一つ勘違いをしていたことを説明せねばなるまい。彼らは「怪獣」という生物について、 一度に「複数の種」を目にすることはあったが、一度に「同一の種を複数」確認したことは今までに一度もなかったので、 「怪獣が一種につき一体きり」と、そんな誤解を心の奥底で覚えてしまっていた。才人もまた、 実際に同じ種の怪獣が複数いるところを目撃したことがなかったので、その可能性をすっかり失念していた。 だからこそ、はっきりと明記する。ゴルドンは二体いた! ルイズたちは挟み撃ちにされてしまったのだ! 「じ、冗談でしょう!? 二匹いるなんて反則よ!」 認めがたい現実を前にして、キュルケが思わずわめいた。だがそんなもので、二体のゴルドンが消えるはずがない。 「まずい……!」 才人や普段は冷静沈着なタバサも、この状況には顔を青ざめた。二体目のゴルドンの巨体により、 逃げ道が塞がれてしまったのだ。一行は怪獣の巣穴でにっちもさっちも行かなくなった。 「キョーキョキョキョキョ!」 「キョーキョキョキョキョキョ!」 二体のゴルドンは、前進も後退も出来ず狼狽しているシルフィードにじりじりと近寄っていく。 「き、きゃああああああッ! やめて! こっち来ないでよ!」 「ひぃぃぃぃぃぃ! ぼ、僕たちが悪かった! だから許しておくれぇ!」 プレッシャーに耐え切れずにルイズやギーシュが悲鳴を上げるが、怪獣に言葉が通じる訳もない。 ゴルドンたちが尻尾を振ってシルフィードを叩き落とそうとするのを、シルフィードは必死にかいくぐってかわす。 だがいつまでもよけ続けることは出来なかった。尻尾のひと振りが翼をかすめ、その際の衝撃で シルフィードは地面へ叩き落とされる。 「きゅーい!」 「わああああああああああッ!」 「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 当然騎乗しているルイズたちも転落し、地面に落下したことでほとんどが意識を失ってしまった。 そこに、怒りの収まらないゴルドンたちが容赦なく接近してくる。確実にペシャンコに押し潰すつもりだ。 「くそッ……! そうはさせるかぁッ!」 だがこの場面で立ち上がる者がいた。才人だ。かろうじて意識を繋いだ彼は、仲間たちを守るため、 延いてはタルブ村をこれ以上蹂躙させないために、ウルトラゼロアイを取り出す。 「デュワッ!」 ゼロアイを顔に装着し、たちまちウルトラマンゼロに変身して二体のゴルドンの前に立ちはだかった! 「キョーキョキョキョキョ!?」 突然40メイルの巨人が立ちはだかったことでひるんだゴルドンたちだが、そこは闘争心の塊の怪獣。 すぐに尻尾や長い首を棍棒のように振るって攻撃を仕掛ける。 「ハッ!」 ゼロは二体の打撃を、腕を盾にすることで弾き返す。ゴルドンは光線や火炎など、特別な攻撃方法を持たない。 重い巨体を活かした直接攻撃しか武器を持ち合わせていないのだ。だが単純な打撃は、ウルトラマンレオに 徹底的にしごかれて強靭な肉体を築き上げたゼロには通用しない。 『くッ……だがこいつは厄介な状況だぜ……』 しかしゼロの方も、無闇に反撃に転ずることが出来ないでいた。何故なら、彼のすぐ後ろには 気を失ったルイズたちが横たわっているからだ。下手に立ち位置を変えたら、彼らがゴルドンに 踏み潰されてしまうかもしれない。光線技や大技も、巻き込む恐れがある。しかも現在の場所は、 ゼロの巨体には狭すぎる怪獣の巣穴。よってゴルドンたちを別の場所へ引き寄せることも出来ないのだ。 と言っても、いつまでもこのままでいる訳にもいかない。ゼロのエネルギーはハルケギニアでは 三分しか持たないのだ。三分を越えれば、才人の姿に戻ってしまう。そうなったら結局は全滅だろう。 『こんな狭い場所じゃミラーナイトも呼べねぇし、どうすりゃいいんだ……!』 圧倒的不利の状況に悩みながらも、ゴルドン二体の攻撃をさばくゼロ。だが打撃をはね返した直後の わずかな隙を突かれて、一体目の尻尾が首に巻きついてしまった。 「キョーキョキョキョキョ!」 『ぐッ!? しまった!』 更に二体目の尻尾も首に巻きつけられる。二体に首を絞められて、さしものゼロもたまらずに悶絶した。 「キョーキョキョキョキョキョ!」 『ぐおおおお……! く、苦しい……!』 怪獣の怪力が首に掛かり、ゼロはその場で膝を突いた。それに気を良くしたのか、ゴルドンたちがもっと力を強める。 『くッ……そぉッ! あんまり調子づくんじゃねぇよ!』 その時、ゼロが遂に怒りを解放した。ウルティメイトブレスレットを叩くと全身が赤く染まり、 力ずくで尻尾の拘束を振りほどく。超パワーの戦士、ストロングコロナゼロに変身したのだ! 「キョーキョキョキョキョ!」 尻尾を解かれたゴルドンたちは、代わりのように頭突きを繰り出すが、 『せいッ!』 その脳天にゼロの鉄拳が炸裂した。頭部に激突した拳の衝撃はゴルドンたちの頭蓋骨を通り抜けて 脳まで伝わり、軽い脳震盪を起こさせる。 「キョーキョキョキョキョキョ……!」 『ふんッ!』 グロッキー状態になった二体の首根っこを、ゼロがむんずと掴む。そして、 『どぉぉぉりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 ストロングコロナの怪力の本領を発揮して、二体の巨体を地上へ向けて投げ飛ばした! ゴルドンたちはまっすぐ吹っ飛んでいき、巣穴を飛び出して大地に転がった。 『はッ!』 ゴルドンたちを一旦排除したゼロは、ストロングコロナからルナミラクルゼロに変身し直す。 そして両手で気絶中のルイズたち全員をすくい上げると、精神を集中して、ルナミラクルの得意とする 超能力を発動してテレポートした。 移動先は、巣穴の外。ゴルドンたちが這いつくばっているのを尻目に、ゼロは山林の中にルイズたちを降ろした。 『よぉし、これで目いっぱい戦えるぜ! ゴルドンども、年貢の納め時だ!』 窮地を見事切り抜けたゼロは、ルナミラクルから通常の状態に戻った。と同時に、持ち直した ゴルドンたちがゼロに押し寄せてくる。 「キョーキョキョキョキョ!」 『ふんッ! はッ!』 相変わらず尻尾や首を振り回して攻撃してくる二体のゴルドンに、ゼロは防御しつつカウンターで 首筋にチョップを見舞う。 「キョーキョキョキョキョキョ!」 攻撃を繰り出しているゴルドンたちの方が、一方的に痛めつけられる結果となった。 開放されている太陽の下では、ゴルドン側に勝ち目がある訳がないのだ。 「キョーキョキョキョキョ!」 それでも怪獣の意地なのか、背中は見せない。一体目が先ほどのように尻尾をゼロの首目掛け伸ばし、 二体目は突進して頭部の角を突き刺そうとする。 『同じ攻撃を二度も食らうかよ!』 しかし尻尾はゼロに易々とキャッチされ、それだけでなく、瞬時に二体目の首に巻きつけられた。 「キョーキョキョキョキョキョ!」 まさかの事態に目を白黒させた二体目も尻尾をゼロに伸ばすがそれも掴まれて、同じように 一体目の首に巻きつけられた。二体のゴルドンは互いの首を絞め合う形になる。 「キョーキョキョキョキョ!」 「キョーキョキョキョキョキョ!」 二体ともほどこうともがくが、互いに勝手に暴れ回ることで余計に絡み、もつれ合う。 激しくのたうち回った末にようやく尻尾がほどけると、両者ともひどく体力を消耗してしまった。 「シャッ!」 この瞬間に、ゼロがゼロスラッガーを投擲した。スラッガーは二体目の首と尻尾の付け根を切断する。 二体目は綺麗に三分割され、たちまち絶命して大地に転がった。胴体の切断面からは、 砂金が零れ落ちる。 「キョーキョキョキョキョ!」 これに激怒した一体目は、仲間の仇を取ろうとしているのか、猛然とゼロに突進していく。 「シェアッ!」 「キョーキョキョキョキョ!!」 しかしその首元にエメリウムスラッシュが撃ち込まれると、爆発とともにゴルドンの命の灯火が消え、 その場に倒れ伏した。タルブ村を踏みにじり、トリステインから黄金を奪っていたゴルドンは二体とも ゼロによって倒されたのだ。 戦いに勝利すると、ゼロは森の中に降ろしたルイズたちに視線をやる。 『やれやれ……何とかなったからよかったが、一時はどうなるもんかと思ったぜ。もう下手に 危険に手を出すような真似は控えてもらいたいな』 主にキュルケに向けて、肩をすくめながら独白すると、空に飛び上がってタルブ村から去っていった。 後日のことだが、黄金怪獣ゴルドンの死体からは、150tの純金が採れた。その黄金は、 タルブ村とトリスタニア、そしてトリステイン軍の復興資金に充てられた。これにより 復興の目途が全く立たずに途方に暮れていたトリステイン軍は、瞬く間に以前の規模を 軽々と超越するほどまでに復活し、トリスタニアとタルブ村も常識外のスピードで復興が成された。 このことにより、タルブ村は怪獣に蹂躙された悲劇の村から一転、トリステインに救いをもたらした 「奇跡の村」と呼ばれるようになった。 「あ~……ホント、ひどい目に遭ったわ……」 そうなることは露知らず、ゼロに救出された後のキュルケは、げっそりとした表情でそうつぶやいた。 無理に虎穴に手を突っ込むような真似をして、危うくゴルドンに殺されかけたことが相当応えたようだ。 「もうあんな、怪獣を甘く見た行動は取らないでよね。次もまた助かるなんて保証はないんだから」 「分かったわ……。あたしだって死ぬのはごめんよ。やっぱり、怪獣は近寄るもんじゃないわね……」 ルイズが注意すると、キュルケは珍しく素直に聞き入れた。それほど骨身に染みたということだろう。 ルイズと才人は何だかおかしくなって、クスッと笑い合った。 それはともかく、これでタルブ村は救われたということで、一行は早速シエスタに本来の目的である 『竜の羽衣』の下へ案内してもらうことになった。怪獣が倒されたと聞いたシエスタは感激のあまり、 何故か才人に抱きついて、ルイズの癇癪を招いたのだが、それはまぁいいだろう。 一行が案内された場所は、タルブ村の近くに建てられた寺院である。この場所は村はずれということもあって ゴルドンの被害を受けておらず、家を踏み潰された人々が身を寄せていたのだが、もう大丈夫だと知ると 皆村の修復のために大喜びで帰っていった。 そしてその寺院なのだが、造りをひと目見た才人は驚きを見せた。丸木が組み合わされた門の形。 石の代わりに、板と漆喰で作られた壁。木の柱……。白い紙と、縄で作られた紐飾り……。 それはどう見ても、ハルケギニアの文化には似つかわしくない建築物で、地球の日本特有の祭殿 『神社』だったのだ。 それだけではない。その神社に祭られている『竜の羽衣』を目にすると、言葉をなくした。 深い緑色の胴体の左右に、鉄板の翼が取りつけられ、前にはプロペラという、ハルケギニア社会では お目に掛かったことのないものが存在する。シエスタが「壊れている」と言った通り、 一度バラバラになったのを形だけでも元の通り繋ぎ合わせただけでもう飛ぶことは出来ないだろうが、 これが本当に空を飛べたことを、才人は理解していた。 「サイト、どうしたの? さっきから固まってるけど……」 ルイズが様子のおかしい才人に向けて尋ねかけるが、才人は何も答えず、代わりにシエスタに向き合って 肩をつかんだ。ルイズはムッと顔をしかめるが、気づきもせずに才人が質問する。 「シエスタ、お前のひいおじいちゃんが遺したものは、ほかにないのか?」 シエスタは頬を染めて、才人の目を見つめ返した。 「えっと……、あとはたいしたものは……、お墓と、遺品が少しですけど」 「それを見せてくれ」 シエスタは才人の頼みで、村の共同墓地へ連れていった。ルイズも主に二人を監視する目的でついてきた。 シエスタの曽祖父のお墓は、共同墓地の一画にあった。白い石でできた、幅広の墓石の中、 一個だけ違うかたちのお墓があった。黒い石で作られたその墓石は、他の墓石と趣を異にしている。 墓石には、墓碑銘が刻まれていた。 「ひいおじいちゃんが、死ぬ前に自分で作った墓石だそうです。異国の文字で書いてあるので、 誰も銘が読めなくって」 シエスタが呟いた。才人はその字を読み上げた。 「海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル」 才人がスラスラ読み上げたことで、シエスタもルイズも目を丸くした。 「サイト……それが読めるってことは、シエスタのひいおじいさんは……」 ルイズがシエスタの曽祖父の正体に勘付いた。その一方で、シエスタは驚きのあまり口を両手で覆っている。 「サイトさん……それを読んだということは、サイトさんがもう一つの『竜の羽衣』を 目にすることの出来る人だったんですね……」 「え……?」 妙なことを口走ったシエスタに、ルイズが振り返る。 「ちょっと、今のどういうこと? 『竜の羽衣』って、もう一つあったの?」 「はい」 ルイズの問い返しに、シエスタがコクリとうなずく。 「ただ、もう一つの方は、みだりに村の外の人に話すなと口止めされてたので教えませんでした。 けれど、今は別です。ひいおじいちゃんの遺言に、この銘が読める人にその存在を教えて、 それがある場所へ案内すべしとありますから」 才人は、先に見せられた『竜の羽衣』の正体を知っていた。それは、20世紀の太平洋戦争時に 日本が製造した戦闘機、ゼロ戦だ。それをタルブ村にもたらしたシエスタの曽祖父は、その時代の 日本人ということになる。 しかし、『もう一つの竜の羽衣』というものは、全く見当がつかなかった。そう何機も戦闘機を こちらの世界に持ち込むことは出来ないはずだ。一体何なのだろうか? 「もう一つの方は、寺院の裏の山に隠されてあります。ご案内しますね」 シエスタは、遺言に従って才人をその場所へと案内し出した。 「この洞窟の中です」 シエスタに連れてこられたところは、神社の背後にある山の、切り立った崖。その一箇所に、 やたらと大きく開いた入り口がある。だが山の陰になる場所にあるので、土地勘のない者は 簡単には見つけられないだろう。 ルイズも当然の如くついてきていた。シエスタは、ルイズが読んだ訳ではないと同行を反対したが、 「使い魔の権利は主人のわたしの権利でもあるわ!」と強硬に主張し、結局押し通したのだった。 「こっちの『竜の羽衣』の方は、もっととんでもない話なんです。空を飛んだというのはもちろん、 巨人に変身したとか。当然信じてる人はいませんが、『固定化』を掛けてないのに何十年も老朽化せず そのままの状態を保ってることから、想像がつかないほどすごいものであることには違いないということで、 みんなひいおじいちゃんの言いつけ通り、これを隠して今日まで守ってきました」 入り口の前で、シエスタが事前説明をする。それを聞いたゼロが、ひと言ボソッとつぶやく。 『巨人に変身……まさか……』 「とても大きくて、さっきのよりおかしな形をしてるので、見ても驚かないで下さいね。 それじゃあ、中に入ります」 松明に火を灯して、シエスタが先導する。それに続いた才人とルイズの目に、炎の明かりに照らされた 巨大な人工物が映った。 『もう一つの竜の羽衣』は、あまりに大きくて視界に収まり切らないのではっきりとは分からないが、 全体的に渡り鳥に似た形状をしているようだった。白い下地を、赤い縁取りで彩っている。 ゼロ戦はすぐに分かった才人も、これが何なのかは心当たりがなかった。 代わりに、ゼロが叫ぶ。 『こいつは!? な、何でこんなところにいるんだよ!』 「きゃっ!? ちょっと、急に大声出さないでよ。ビックリするじゃない」 ルイズが、ゼロの声はシエスタには聞こえてないことも忘れて抗議した。急に口を開いたルイズに、 シエスタが怪訝な目を向けているのが、構わずにルイズが囁く。 「それで、あなたはこれが何なのか分かったの?」 ゼロはすぐに答えた。 『ああ……。こいつはスターコルベット・ジャンバード。俺の仲間……つまり、ウルティメイトフォースゼロの ジャンボットのもう一つの姿だ!』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9445.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十四話「闇が来る」 炎魔人キリエル人 炎魔戦士キリエロイド 超古代尖兵怪獣ゾイガー 登場 ブリミルたちの村の上空に浮かび、その不気味さで村の人々を脅かしているキリエル人の ゆらめく姿を、才人は奥歯を噛み締めながらにらみつけた。 「やっぱり……あいつか……!」 この時代からしたら遠い未来だが、才人にとってはほんの二日、三日前の出来事。ロマリアで いきなり襲いかかってきた怪人そのものである。まさか六千年前の時点で既にハルケギニアにいて、 こうしてブリミルたちを脅かしていたとは。 キリエル人はおびえている村の人間全員に向けて、高圧的に言い放ち続ける。 『この世界はもうじき闇によって滅びる。貴様ら愚かで無力な人間を救うことが出来るのは、 我々キリエル人だけである! 今すぐに我々にひざまずいてしもべにあることを誓うのだ! さすれば救いの道は開かれる!』 その言い分に、外にいる村の住人は皆一様に困惑する。 「そんな勝手なことをいきなり言われても……」 「俺たちはあんたのことを何も知らないんだぞ! それでしもべになれだなんて無茶な……!」 尻込みしている人間たちに、キリエル人は苛立ったように怒鳴り散らした。 『黙れ! 貴様ら下等な人間に選択の余地はない。貴様らに与えられた道は、キリエル人を 崇め忠実なる下僕となることだけだ!』 一方的に言いつけるキリエル人に強く反論する者たちが現れる。誰であろう、ブリミルと サーシャだ。 「そんな勝手な要求は呑めない! ぼくたちにはぼくたちの信仰があり、生活がある。いきなり 出てきたあなたの言いなりになるなんてことは御免だ!」 「わたしはこの村の者じゃないけど、一つだけ言ってやることがあるわ。あんた何様なのよ! 礼儀ってものの意味を調べてから出直してきなさい!」 二人の発言に、キリエル人はますます不興を募らせているようであった。 『愚か者どもが! 己らの矜持の方が、命より大事だとでも言うのか! キリエル人の救いを 受けなければ、お前たちはこの世界とともに滅亡するのだ!』 その言葉にもブリミルが言い返す。 「ぼくたちはその滅びとかいうのを阻止するために頑張ってるんだ! それに光の戦士たちも 力を貸してくれている。世界を滅ぼさせたりはしないぞ!」 光の戦士、という単語に、キリエル人の怒りのボルテージはマックスになったようだった。 『よりによってウルトラマンを頼りにしようなどとは……愚行の極致! あまりに罪深い! もはやその罪は、我が聖なる炎でないと清められぬぞぉッ!』 喚きながら、キリエル人は火炎を飛ばして村のテントを焼き始めた! 「きゃあああああああッ!?」 一気に巻き起こる悲鳴。メイジたちは慌てて水の魔法で消火に掛かるが、火災の勢いは 凄まじく、またキリエル人が次々に火を放つので手が足りない。 「やめろ! 暴力に訴えるんだったらこっちも……!」 キリエル人へ杖を向けるブリミルだが、すぐに小さくうめく。 「くッ、呪文詠唱が間に合うか……!」 「あの高さじゃさすがに剣が届かないわ! 誰か、弓持ってない!?」 サーシャが弓を求めるが、それが届けられる前にブリミルたちの先頭に立つ者があった。 「いい加減にしろよ! このエセ救世主、いや救世主気取りの大馬鹿野郎!」 もちろん才人だ。 『何だと……!?』 正面から罵倒されたキリエル人はすぐに顔色が変わる。 「お、おいきみ! 危ないぞ!?」 「いや待った! 彼なら恐らくは……!」 メイジの一人が泡を食って才人を止めようとしたが、ブリミルが神妙な面持ちで制止した。 「守る相手に暴力を振るって言うことを聞かすなんて馬鹿もいいところだ! お前の本性は 神でも何でもない、ただの底抜けのわがまま野郎じゃねぇか! 自分の振る舞いが物語ってるぜ!」 才人の遠慮のない非難の言葉に、キリエル人は怒りの矛先を全て彼に向けた。 『おのれ、キリエル人に向かって何たる口の利き方……地獄の炎で焼かれて己の罪を思い知れッ!』 才人へと灼熱の火炎を猛然と放ってくるキリエル人! だが才人はスパークレンスを掲げて、その光で火炎を打ち払った! 『その光はッ!? そういうことか……!』 一瞬驚愕したキリエル人だが、すぐに察してこれまで以上の怒気を纏う。 『ウルトラマン! 全ては貴様らのせいだ……! 貴様らの存在が愚かな人間どもを惑わせるのだ! おこがましいと思わんのか!』 「ほざけ! お前がどう思おうが知ったことじゃねぇ! 俺がすることはただ一つ……お前の 暴力からこの人たちを守ることだけだッ!」 言い切って、才人はスパークレンスを高々とかざした。すると先端の翼型の意匠が左右に開き、 まばゆい閃光が発せられる! 「ヂャッ!」 光とともに、才人の身体はたちまち巨躯なるウルトラマンティガへと変身する。 「おおッ!?」 「あれはまさしく、光の戦士……! あの少年がッ!」 メイジたちの間でどよめきが起こった。一方のキリエル人は、ティガになった才人を激しく ねめつける。 『よかろう。見せてやろう、キリエル人の力を! キリエル人の怒りの姿をッ!』 キリエル人の足元の地面が突如ひび割れ、マグマの噴出のように火炎が噴き上がると、 それとともにキリエル人の姿が変化。ティガと同等の体格の怪巨人へと変化した! 「キリィッ!」 現代のハルケギニアで戦ったのと同じキリエロイド。しかし顔はあの時の笑い顔とは違い、 泣き顔のように見える。 「タァーッ!」 「キリッ!」 すぐにティガとキリエロイドの決闘が開始される。ティガの先制の拳をキリエロイドが 腕を差し込んで止め、ボディにパンチを入れる。 「ウッ!」 「キリッ! キリィッ!」 ひるんだティガにキリエロイドの猛攻が仕掛けられる。スピーディーな回し蹴りの連発からの 側転キックという、流れるような連続攻撃にティガは身を守るので手一杯になる。 キリエロイドの軽やかな身のこなしから来る絶え間ない攻めには反撃の余地がない。しかし 才人も既にキリエロイドと戦って、その動きが分かっているはずだ。それに目の前の相手からは、 以前ほどの力は感じられない。 では何故苦戦しているのか。 『くッ……やっぱり身体を思うように動かせねぇ……!』 それはもちろん、ティガの肉体に慣れていないからである。もう長いことゼロとして戦って 来たので、その身体能力に慣れ切った分、違うウルトラマンのスペックに逆に対応できていないのだ。 「キリィーッ!」 「ウワァァァッ!」 キリエロイドの火炎弾が直撃し、大きく吹っ飛ばされるティガ。このまま押し切られてしまうのか? 『くッ、くそぉッ……!』 よろめきながら身を起こすティガ。その時に、その耳にブリミルたちの応援の声が届く。 「がんばれ! 立ち上がってくれサイトくん!」 「しゃんとしなさい! 光の戦士はその程度じゃへこたれないはずよ! わたしたち何度も 見てるもの!」 『ブリミルさんたち……!』 わぁわぁと声を張り上げて応援してくれるブリミルたちに、ティガは目を向ける。 「ぼくは信じてるよ! 光の戦士は何も言わないが……とても優しく、勇敢な人たちだとね! きみたちこそが、この世界を救ってくれる勇者だ! ぼくたちも戦う、だから負けないでくれ!」 『……!』 ブリミルの激励の言葉に、才人の心が沸き上がる。 「キリィィィッ!」 一方でキリエロイドは苛立ちを募らせたかのように、ブリミルたちへと火炎を飛ばして攻撃する! 「うわぁぁぁッ!」 ブリミルたちの窮地! ……しかし、火炎は途中でさえぎられて、彼らには届かなかった。 「ハッ!」 瞬時にスカイタイプに変身したティガが超スピードで回り込んで、その身で火炎を打ち払ったからだ! 「おぉッ! 光の戦士が、守ってくれた!」 「サイトくん……!」 「やるじゃないの」 ブリミルたちが歓喜し、サーシャはティガの背中に苦笑を向ける。 「タァーッ!」 今度はティガの反撃の番だった。スカイタイプのスピードを活かしたラッシュを仕掛け、 キリエロイドを押していく。キリエロイドも迎え撃つものの、徐々にティガの動きのキレが 増していき、少しずつ防御が追いつかなくなっていく。 「キッ、キリィ!?」 ティガの動きがどんどん良くなっていくことにキリエロイドは困惑していた。 才人はブリミルたちの応援によって心が震え、かつ戦いながらティガの身体能力に順応 しているのだ。戦いながら成長している! こうなったからには、最早完全にティガの流れである。 「タァッ!」 「キリィッ!」 ティガのハイキックがキリエロイドを蹴り飛ばす。そして距離を開けたところで、カラー タイマーに添えた腕を伸ばして青い光線をキリエロイドの頭上に放った。 「ハッ!」 光線が弾け、白い煙のようなものがキリエロイドの全身に降りかかる。するとキリエロイドが たちまちにして頭の天辺から足のつま先に至るまで凍りついていく! 「キリ……!?」 ウルトラ戦士には珍しい冷却攻撃、ティガフリーザーだ! キリエロイドは全身氷漬けに なってしまい、一歩も身動きが取れなくなった。 「フッ!」 今こそが絶好のチャンス。マルチタイプに戻ったティガは胸の前で交差した両腕を左右に 大きく開いて、同時にエネルギーを最大にチャージ。そして腕をL字に組んで必殺の攻撃を 繰り出す! 「タァッ!」 ティガの最大の必殺技、ゼペリオン光線が炸裂! キリエロイドは一瞬にして粉々に砕け 散って消滅したのだった。 「おおおおおおおッ! 勝ったぁッ!」 「やったぞぉーッ!」 ティガの逆転勝利に村の人々は一斉に歓声を発した。ブリミルとサーシャも満足げにうなずく。 ……しかしキリエロイドが砕け散っても、キリエル人が完全に消滅した訳ではなかった。 ほとんどのエネルギーが飛び散りながらもどうにか生き長らえ、生命の保存のために人知れず 異次元に逃れていく。 『おのれ……よくもやってくれたな……! この恨みは決して忘れん……。たとえ何千年 経とうとも、再び相まみえたその時には、より強めた怒りの姿によって復讐をしてくれる……!!』 恨み節を残して、キリエル人はこの世界から退散していった。 「フッ……」 そんなことは知らずに、ティガは変身を解いて才人に戻ろうとしたのだが……不意に嫌な 気配を感じ取って後ろに振り返った。 「フッ?」 そして驚愕する。視線を向けた先の背景が……徐々に真っ黒い闇に塗り潰されていくのだ! 決して夜の闇ではない。もっと恐ろしい……生存本能が非常に危険なものだとの警告をガンガン 鳴らす。 「な、何だあれは!?」 ブリミルたちも闇に気がつき、恐れおののく。彼らもまた、迫る闇が大変危険なものだと いうことを直感で理解していた。 「ハッ!?」 ティガ=才人は、キリエル人の「闇によって滅びる」という発言を思い返した。 『まさか……もう来るってのか!?』 ――現代のハルケギニア。教皇の即位記念式典が行われるアクイレイアはガリアとロマリアの 国境付近に存在する。アクイレイアからわずか北方十リーグのところには、火竜山脈を南北に 突き破る街道があり、そこに国境線が敷かれている。 その名も虎街道(ティグレス・グランド・ルート)。直線で十数リーグもの長さになる、 ロマリア東部からガリアへ通ずる唯一の街道だ。左右を切り立った崖に挟まれていて昼でも 薄暗い土地であるため、昔は人食い虎や山賊などの被害が相次いだ記録が残っている。 それ故の物々しい通称だが、整備が進んで安全が確保された今では常に商人や旅人が行き交う、 ハルケギニアの主街道の一つに数えられている。 だが、そんな虎街道のガリア側の関所では、ある揉め事が発生していた。 「通れねぇ? お役人さん、どういう了見だい?」 ロマリアの祝祭ももう目前だというのに、関所の門が固く閉ざされ、誰一人としてロマリアへと 通行できないでいるのである。式典に参加するためここまで旅をしてきた者たちは当然ながら困惑し、 一様に関所を管理する役人に説明を求める。 だが、役人からの回答はたった一つだけ。 「通れぬものは通れぬのだ。追って沙汰があるまで、待っておれ」 当然そんな答えにならない答えでは納得がいかない。商人の一人は殺気立ちながら詰め寄った。 「おい、待ってくれよ! 明日の晩までにこの荷をロマリアまで運ばないと、大損こいちまう! それともなんだ、あんたが代わりに荷の代金を払ってくれるとでもいうのか?」 「バカを申すな!」 一喝する役人だが、街道の利用者たちからは次々に不満の声が噴出した。 「教皇聖下の即位三周年記念式典が終わってしまうだよ! この日をわたしがどれだけ楽しみに していたのか、あんたたちに分かるもんかえ!」 「サルディーニャに嫁いだ娘が病気なんだよ」 役人はそれを抑えつけようととうとう杖を構えた。 「わたしだって知らん! お上からは、街道の通行を禁止せよ、との命令以外、何も受けて おらんのだ! いつになったらこの封鎖が解かれるのか、わたしの方が知りたいくらいだ!」 全く以て要領を得ない役人の言葉に、集まった人々が顔を見合わせる。 その時、一人の騎士が役人の元に駆け込んできた。 「急報! 急報!」 「どうなされた?」 「リュティスより未確認の……!」 馬から降りるのももどかしく、手綱を放り投げたままでの息せき切った報告であったのだが…… それよりも早く、その未確認の「何か」は、空の彼方より虎街道上空を横切っていった。 「ピアァ――――ッ!」 それは、巨大な鳥だったのか? それとも竜だったのか? あまりに速すぎて街道の人間の 目では全く見えなかった。分かったのは二つだけ。フネなどでは断じてないこと、そして…… 何体も街道上空を通過して、ロマリア方面へと飛んでいったことだ。 「な、何だ? 今のは……」 「リュティスから来たって? あんなものすごい速さの、何かが……」 事態がまるで呑み込めずに、利用者たちは先ほどまでの喧騒が一転して呆然としていた。 だが……彼らの背筋を、急にひどく寒いものが駆け抜ける。 「な、何だ……? この感じは……」 「何か、すごく嫌な感じが……」 唖然と空を見上げたままの人間たちの目に飛び込んできたのは……飛行物体の進行ルート上を たどるように、ロマリアへと移動する――と言うべきなのだろうか――「暗闇」としか言いようの ないものであった。 「ひやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」 この場にいた人間は全員、恐怖の絶叫を発して腰を抜かしたり、その場にうずくまって がたがた震えたり、必死に物陰に身を潜めるようにして息を殺したりと恐怖に駆られた 反応を示した。――彼らの本能が、あの「闇」が、人食い虎などとは比べものにならないほど 危険で恐ろしい、おぞましいものだと感じ取ったのだ。 その「闇」は、関所の人間にはまるで無関心かのようにそのまま通り過ぎていった。「闇」が 完全に去って、人間たちの恐怖心はようやく消えたのである。 役人は未だ冷や汗まみれの顔でつぶやいた。 「一体、何が始まるというんだ……」 そのひと言が発せられたのと――ロマリア領空を警護するロマリア艦隊が、先に超高速で 飛んでいった飛行物体の集団――超古代の怪獣ゾイガーの群れに壊滅させられたのはほぼ同時であった。 そしてゾイガーの露払いが済んだのを見計らうように、「暗闇」は確実にアクイレイアへと 近づいていったのである……。 「プオオォォォォ――――――――!!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9391.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その3)」 恐怖の怪獣軍団 宇宙恐竜ゼットン 登場 才人は精神を囚われたルイズを救うべく、本の世界への旅を始めた。最初は初代ウルトラマンが 地球を防衛していた時代を描いた物語。しかし肝心のウルトラマンはゼットンに敗北したことが 原因で、失意の底にあった。才人は憧れのヒーロー、ウルトラマンを懸命に励ます。そんな中出現 したのは、日本中に出現したすさまじい数の怪獣軍団! その前にゼロも苦戦を強いられ、ピグモンが ドドンゴの攻撃を受ける。それを目の当たりにしたハヤタは遂に立ち上がり――ウルトラマンが 甦ったのだった! 「ヘアッ!」 今一度地球を守るべく立ち上がったウルトラマンは、颯爽と怪獣たちの間に飛び込んで ギガス、ネロンガ、グリーンモンスにチョップを叩き込んでゼロから弾き飛ばした。 「ゲエエオオオオオオ!」 「ゲエエゴオオオオオウ!」 「グウウウウウウ……!」 更にドドンゴに飛びかかって文字通り馬乗りになり、その体勢から首を引っ張ることにより、 ドドンゴは後退させられて怪獣軍団から引き離された。 「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」 怪獣たちがウルトラマンにひるんでいる隙に、ゼロは体勢を立て直すことに成功した。 『助かったぜウルトラマン! せぇやッ!』 ゼロも負けてはいられない。流れるようにマグラー、ゲスラにキックを仕掛けて張り倒し、 ケムラーの吐く亜硫酸ガスを跳躍して華麗に回避。 『もう食らわねぇぜ!』 毒ガスは代わりにレッドキングが食らう羽目になった。 「ピッギャ――ゴオオオウ!?」 もがき苦しんだレッドキングは岩を投げ、それがケムラーの口に嵌まってガスが詰まった。 「ヘアァッ!」 ウルトラマンはドドンゴに乗ったまま首筋をチョップで連打してダメージを与えていくが、 ドドンゴがやられっぱなしでいるはずがない。思い切り暴れてウルトラマンを振り払う。 「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」 「ダァッ! シェアッ!」 しかしウルトラマンも振り落とされてすぐにスペシウム光線を発射。ドドンゴにクリーン ヒットする。 「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」 その一撃によってドドンゴはたちまち絶命。横に倒れて動かなくなった。 この間レッドキングを押さえつけていたゼロがウルトラマンに向かって告げた。 『ウルトラマン! ここは俺と科特隊に任せてくれ。あんたは他の場所の怪獣を頼む!』 うなずいたウルトラマンが全身に力を込めると、その身体にエネルギーが集まっていく。 「ヘアッ! トワァッ!」 エネルギーが最大に高まると、何とウルトラマンが五人に分身した! ウルトラセパレーション、分身の術。ウルトラマンの新しい戦法だ! 「シェアッ!」 五人になったウルトラマンは、それぞれ別の方向に飛び立って怪獣の被害に遭っている 現場に急いでいった。 その内の一人は沿岸で暴れているガマクジラを発見。 「グアアアアッ!」 即座に飛行速度を急上昇させて、上空から一直線にガマクジラに体当たり! これによってガマクジラは一発でバラバラに四散した。ウルトラマンは上昇して別の場所へと 向かっていった。 また別の一人はコンビナートを火の海にしているペスターを発見。 「シェアッ!」 着地と同時にスペシウム光線をペスターの頭部にぶち込んで、一瞬で撃破した。 「キュ――――――ウ……!」 ペスターを倒してからウルトラマンは合わせた両手からウルトラ水流を発し、コンビナートの 火災を瞬く間に消し止めた。それからまた飛行して、市街地の方角へ飛んでいった。 五人のウルトラマンはそれからゴモラ、ヒドラ、ウー、ザンボラー、ケロニアの元へ駆けつけて 勝負を挑んでいった。 「ヘアァッ!」 「ギャオオオオオオオオ!」 一人目のウルトラマンが空中からドロップキックを仕掛けてゴモラを蹴り倒す。 「ヘアッ!」 「ピャ――――――オ!」 ウルトラマンの二人目はヒドラと格闘戦を繰り広げる。 「ヘアァッ!」 「ガアアアアアアアア!」 ウルトラマン三人目はウーと取っ組み合って雪原の上をゴロゴロ転がった。 「ヘアッ!」 「ギャアアアアアアアア――――――!」 ウルトラマン四人目は低姿勢でザンボラーにタックルして、相手の身体をすくい上げて放り投げる。 「トアアァッ!」 「パアアアアアアアア!」 ウルトラマン五人目はケロニアに一本背負いを決めて投げ飛ばした。 各地でウルトラマンが奮闘している間、ゼロもまた怪獣軍団相手に激しく戦っていた。 「セアッ!」 ゼロのビームランプから発射されたエメリウムスラッシュがグリーンモンスの花弁の中心を 撃ち抜き、グリーンモンスを炎上させた。更にゼロはネロンガを捕らえて高々と担ぎ上げて 投げ飛ばす。 『せぇぇいッ!』 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 地面に叩きつけたネロンガにすかさずワイドゼロショットを食らわせて爆散させた。 これで一気に二体撃破だ。 だがまだレッドキング、マグラー、ギガス、ゲスラ、ケムラーと五体もの怪獣が残っている。 「ウルトラマンにばかり戦わせてはいかん! 我々も戦うぞ!」 そこで攻撃用意を整えた科特隊が援護を開始した。まずはムラマツがナパーム手榴弾を マグラーに向かって投擲した。 「えぇーいッ!」 手榴弾の炸裂を頭部に食らったマグラーはきりきり舞って、ばったりと倒れる。 「ギャアアオオオォォウ……!」 イデはジェットビートルを駆って、ギガスの頭上を取った。 「今だ! 強力乾燥ミサイルを食らえ!」 ビートル底部の弾倉が開き、爆弾が投下。ギガスに命中して爆発すると、ギガスは全身が 急激にひび割れて粉々になった。 ルイズはゲスラをスーパーガンで撃ちながらゼロに叫んだ。 「背びれが弱点よ!」 うなずいたゼロがゲスラの背後に回り込んで、素早く背びれを引き抜いた。 「ウアァァァッ……!」 背びれを抜かれたゲスラはたちまち生命活動を停止し、その場に横たわった。 アラシはマッドバズーカを肩に担いで照準をケムラーに向けた。 「こいつで泣きどころをぶち抜いてやる!」 ゼロはすかさずケムラーの背後に飛びかかって、アラシが狙いやすいように甲羅を引っ張って 開き、その下に隠されている核を剥き出しにした。 「助かったぜ! 食らえッ!」 バズーカから飛んだ弾丸がケムラーの核を見事破壊! 「カァァァァコォォォォォ……!」 核を撃ち抜かれたケムラーだがその場では往生せず、ほうほうの体で火山まで這っていくと、 自ら火口に飛び込んで姿を消した。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 最後に残ったレッドキングが猛然とゼロに突進していくが、ゼロは正拳でカウンターして レッドキングを押し返した。 『てぇあッ!』 よろめいたレッドキングに、ムラマツ、アラシ、ルイズがスーパーガンを向ける。 「アラシ、フジ君! トリプルショットだ!」 「はいッ!」 三人がスーパーガンを重ね合わせると、発射される光線も合わさって威力三倍の必殺攻撃と なり、レッドキングを撃ち抜いた。 「ピッギャ――ゴオオオウ!!」 トリプルショットをまともに食らったレッドキングは仰向けに倒れ、力尽きた。これで この場の怪獣たちは全滅した。 「シェアッ!」 怪獣が全て倒されると、ゼロは空に向かって飛び上がっていった。 五人のウルトラマンたちの方もまた、怪獣との決着を順次つけていた。 「ジェアッ!」 飛んで逃げようとするヒドラに放たれたスペシウム光線が命中し、ヒドラは空中で爆発。 「ジェアッ!」 ケロニアにはウルトラアタック光線が決まり、ケロニアの全身を吹っ飛ばした。 大阪ではゴモラの頭部にスペシウム光線がヒット。 「ギャオオオオオオオオ!!」 ザンボラーにもスペシウム光線が炸裂し、全身を炎上させた。 ウーもまた倒され、五人のウルトラマンは高空で合体して一人のウルトラマンに戻り、 そしてウルトラマンは地上に光の輪を放ってハヤタの姿に戻ったのだった。 その場に、同じようにゼロから戻った才人が駆けつける。 「ハヤタさん! 変身できたんですね!」 「平賀君……」 才人に振り返ったハヤタの顔つきからは、勇敢な心がはっきりと見えていた。もう陰鬱と した表情は、さっぱりとなくなっていた。 「ありがとう。君の言葉が、僕の目を覚ましてくれたよ」 「いいえ。あなたは他ならぬ自身の勇気で復活したんです。俺はそのほんの手助けをしただけです」 ハヤタに力が戻ったことで安堵した才人だったが、その時ハヤタの流星バッジに着信が入った。 『ムラマツだ。ハヤタ、応答せよ!』 「こちらハヤタ!」 『基地周辺にゼットンが出現! 我々は先に帰投して防衛に当たる。お前もすぐに基地へ 戻って防衛に当たれ!』 「了解!」 バッジのアンテナを戻したハヤタは、才人と視線を合わせる。 「平賀君、僕に力を貸してくれ!」 「もちろんです!」 二人はそれぞれベーターカプセルとウルトラゼロアイを取り出し、同時に再度ウルトラマンに 変身を遂げた! 「シェアッ!!」 二人のウルトラマンはまっすぐ科特隊基地へと飛んでいった。 「ピポポポポポ……」 科特隊基地はゼットンの襲撃を受けていた。ゼットンの顔面から放たれる光弾によって、 基地が破壊されていく。ムラマツたちが応戦しているものの、ゼットンには敵わず押されていた。 そこに駆けつけたウルトラマンとゼロ。まずはウルトラマンが高速回転してキャッチリングを 放ち、ゼットンを拘束した。 「ヘアッ!」 ゼットンはキャッチリングで締めつけられながらも振り返り、ウルトラマンに狙いをつける。 しかしそこにゼロが飛び込んだ! 『せえええいッ!』 ゼットンの身体をがっしり捕らえて、高々と投げ飛ばす! 「ピポポポポポ……」 地面に叩きつけられたゼットンだが、それでもキャッチリングを破って立ち上がった。 その前にウルトラマンとゼロが回り込んで、にらみ合いとなる。 いよいよ物語のクライマックス。このゼットンを打ち破れば、一冊目の本も完結だ! 「ピポポポポポ……」 ゼットンはテレポーテーションで一瞬にしてウルトラマンたちの背後を取った。――が、 察知したゼロが瞬時に後ろ蹴りを入れてゼットンを返り討ちにした。 『てぇあッ!』 ふらついたゼットンに、ウルトラマンが飛びかかって渾身のチョップを食らわせた。 「ヘアァァッ!」 追撃をもらったゼットンが後ずさりした。この瞬間にゼロはストロングコロナとなる。 『でぇぇぇあぁッ!』 強烈なパンチが炸裂して、ゼットンは大きく吹っ飛んで地面の上を転がった。 さすがのゼットンも、二人のウルトラマンを同時に相手することは出来ないようだ。しかも ウルトラマンとゼロは、即席のタッグとは思えないほどに呼吸がぴったりだ! 『行けるぜ、ゼロ! その調子だ!』 『おうよ! このまま一気に物語のフィニッシュだぜ!』 ゼロが勇み、ウルトラハリケーンからのとどめを決めようと一歩前に踏み出した。 だがその時! ゼットンが突如として真っ赤に発光! 『な、何だ!?』 突然のことにゼロもウルトラマンも驚愕して立ちすくむ。そして赤い閃光が収まると―― ゼットンの姿が一変していた。 「ピポポポポポ……!!」 体格はひと回り大きくなって、全身を覆う甲殻が増量して厳つくなっている。各部の発光体も 数が増えて変形し、細く尖った形をしている。この変化に合わせるように威圧感もまた増加し、 荒々しい印象を受ける。 変わり果てたゼットンの姿を目の当たりにしたゼロが叫んだ。 『EXゼットン! 何てこった!』 『EXゼットン!? そんな馬鹿な! この時代には、まだ存在してないはずだろ!』 混乱する才人。強化されたゼットンは最近になってから確認された存在であり、初代ウルトラマンの 時代である1960年代にはまだ影も形もないはずだ。それがどうして本の中の世界に出てくるのか。 ゼロがその理由を推察する。 『まさか、本来なら未来の存在である俺たちが本の中に入り込んだ影響でこんな事態が発生 しちまったんじゃ……』 『何だって!? そんなことが……!』 信じられない気持ちの才人だったが、EXゼットンが出現したのは疑いようもない事実だ。 「ピポポポポポ……!!」 変身を果たし、力を増したゼットンがゼロたちの方へ足を踏み出し――その姿が忽然と消えた! 「!!」 ゼットンはまたもゼロの背後にテレポートしていた。再びキックで迎撃しようとしたゼロだが、 「ピポポポポポ……!!」 ゼットンは出現と同時にスライドしながらゼロに突進し、手に生えた凶険な爪でゼロを はね飛ばした! ストロングコロナゼロをも上回る凄まじいパワーだ! 『おわぁぁぁッ!』 「ダァッ!?」 代わってウルトラマンが飛びかかっていくものの、彼も腕の一撃で軽く弾き飛ばされた。 「ウワァッ!」 『ぐッ……せぇいッ!』 ゼロは地面に叩きつけられながらもゼロスラッガーを投擲したが、それもゼットンの爪に 弾かれてしまった。 「ピポポポポポ……!!」 ゼットンは倒れているゼロたちに全く容赦がなく、顔面から火炎弾を連射して激しく追撃する。 『うわあぁぁぁぁぁぁッ!』 「ジェアァッ!」 反撃の余地すらない猛攻を受け、ゼロとウルトラマンは連続する爆炎にもてあそばれる。 二人のカラータイマーが激しく点滅して危機を知らせるが、ただでさえ手強いEXゼットンに 対して、両者ともここまで連戦に次ぐ連戦で疲労が蓄積していたのだ。相手の猛攻撃により、 それが響いてきた。 『ぐッ……! まだ最初だってのに、とんでもねぇピンチだ……!』 火炎弾に襲われながらうめくゼロ。このままでは本を完結できないどころか、ゼロと才人の 命まで本当に危ない。絶体絶命の状況! しかし、この時戦っているのは何もウルトラマンだけではないのだ。そう、科特隊が彼らに ついている! 「よぉーし! 今イデ隊員がウルトラマンに、スタミナを送って……!」 イデが携帯していたケースから特殊弾頭を取り出して、スーパーガンの銃口に装着させた。 イデの行動に気づいたアラシが振り返る。 「今まで何か研究してると思ったら、それだったのか」 「アラシ隊員! このスタミナカプセルを、ウルトラマンのカラータイマーに命中させて下さい!」 「そんなことして大丈夫なのか!?」 「大丈夫です!!」 太鼓判を押すイデ。話している間にもウルトラマンたちはゼットンに追いつめられており、 これ以上問答している余裕はない。 アラシはイデを信用して、素早くスタミナカプセルをウルトラマンのカラータイマーに向けた。 「行くぞ!」 発射されたカプセルは、アラシの腕が冴え渡り、見事にウルトラマンのカラータイマーに命中! カプセルが炸裂し、解き放たれたエネルギーがカラータイマーを通してウルトラマンに吸収された。 「ヘアッ!」 すると途端にカラータイマーの色が青に戻り、消耗し切っていたウルトラマン自身も急激に 力を取り戻した。いや、普段以上に力がみなぎった状態になっている! 『!! こ、これは……!』 驚いたゼロが見上げる先で、立ち上がったウルトラマンにゼットンが火炎弾を放つ。 「ピポポポポポ……!!」 「シェアッ!」 瞬間、ウルトラマンは八つ裂き光輪を出したと思うとそれを自分の胸の前で回転させる。 その回転が、火炎弾を反射した! 「!!」 増強されたパワーが仇となり、ゼットンは火炎弾の爆撃を自分が食らって大きくよろめいた。 これに目を見張る才人。 『すげぇ……!』 『のんきに感心してる場合じゃねぇぜ! 今こそチャンスだ!』 ゼロは即座に通常状態に戻ってスラッガーをカラータイマーに接続、ゼロツインシュートの 構えを取る。 ウルトラマンは八つ裂き光輪をそのままゼットンへ飛ばした。ゼットンは爪で光輪を破砕したが、 その直後のわずかな隙を狙って、ゼロとウルトラマンの二大必殺光線がほとばしる! 『せぇあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 「ジェアッ!」 ゼロツインシュートと、虹色に輝くマリンスペシウム光線がEXゼットンに直撃。これを 食らったゼットンは衝撃で宙に浮き上がると、そのまま壮絶な大爆発! 木端微塵になって 消滅した。 「やったぁぁぁ―――――!!」 『やった……!!』 大喜びの科特隊。才人とゼロも、彼らと全く同じ気持ちだった。 才人は本の主人公を立てながらも、自分たちで物語を完結に導かなければならない。そう考えて この世界にやってきた。しかしながら、本の中のウルトラマンと科特隊は彼ら自身の力でハッピー エンドを迎えた。物語の中でも、地球の歴史の始まりのウルトラマンと防衛チームは偉大だったと いうことなのだろう。 EXゼットンを撃破して、ゼロはウルトラマンと向き合った。ウルトラマンが感謝の意を 表すようにうなずくと、ゼロも同じようにうなずいてそれに応じる。 「シェアッ!!」 そして二人は天高く飛び立ち、地上から飛び去っていく。 ――その様子を、ピョンピョン飛び跳ねて見送る赤い影。 「ホアーッ!」 ピグモンだ。岩雪崩に潰れそうになったその時、ゼロは一瞬ルナミラクルゼロに変身して ピグモンにエナジーシールドを照射していたのだ。それが盾となって、ピグモンの命をつないだ のであった。 ゼロは上空から守った命に手を振ると、ウルトラマンに見送られながらこの地球から飛び 去っていったのだった……。 ――『甦れ!ウルトラマン』が無事に完結を迎え、才人は現実世界に帰ってきた。 「オカエリー!」 「どうやら、無事に一冊目の本を完結させられたようですね」 才人の帰還を迎えたのはガラQとリーヴル、それからタバサとシルフィードとハネジロー。 皆才人を待っていてくれていたようだ。 しかし才人が真っ先にやったのは、ルイズの容態の確認だった。 「ルイズは!? 目を覚ましたか!?」 バッとベッドの方へ向かったが、ルイズは未だに眠ったままで、良くなっている様子は 傍目からは見られなかった。 落胆する才人にリーヴルが告げた。 「ルイズさんに精神力の一部が戻ったのは確認できました。しかしやはり、六分の一が戻った だけでは目に見えた変化はないようです」 「そうか……。なら次の本の完結を……!」 と言いかけた才人だったが、振り向いた途端にふらついて倒れそうになった。 「うッ……」 それを慌てて支えるタバサとシルフィード。 「無茶なのね! あなたも大分疲れてるみたいなのね。本を終わらせるの、大変だったんでしょ?」 シルフィードの言う通りだ。戦いに戦いを重ね、最後はEXゼットンとのバトル。これで 消耗しないはずがない。 「くッ……一冊終わらせただけでこんな調子で、ルイズを助けられるのか……」 焦燥する才人にタバサが忠告。 「焦ってもしょうがない。無理は禁物」 「お姉さまの言う通りなのね。あなたが倒れちゃったら、桃髪の子だって永遠に助からないのね」 シルフィードたちの意見にリーヴルも賛同した。 「今日はもうお休みになって、続きは明日からにした方がいいでしょう」 「そうだな……。そうしよう」 才人は逸る気持ちを抑えて、ふぅ……とため息を吐いて肩の力を抜いた。 そのままどっかと椅子に腰を下ろすと、タバサが告げる。 「わたしたちは一旦学院に戻る。必要なものがあったら取ってくる」 「ありがとう、タバサ。それじゃお願いするよ……」 疲弊し切っている才人はタバサの厚意に甘え、ルイズが目覚めた時のための着替えなどの 生活用品を頼んだ。 「お任せなのねー! それじゃお姉さま、行きましょう」 「ん……」 頭にハネジローを乗っけてシルフィードが退室していこうとする。その後に続くタバサだが、 ふとリーヴルを一瞥して、一瞬だけ訝しむように目を細めた――。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9079.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十一話「魔の眼鏡 スケベ心にご用心!!(前編)」 謀略宇宙人マノン星人 登場 アンリエッタ率いるトリステイン軍本隊が到着した時には、タルブ村の戦いは既に終わっていた。 怪獣、異星人は完全に駆逐され、残っているのは戦艦を失ったアルビオン兵のみであった。 単純な兵力では以前アルビオン側が上であったが、彼らは戦艦を失い大地に放り出されたことで 戦意が削がれていたので、恐るべき敵がいなくなったことで逆に士気を高めたトリステイン軍に なす術なく捕らえられ、トリステイン軍が到着する前にはもう姿をくらましたワルドを除いた 全員が捕虜と化した。 不思議なことに、ハルケギニア外からの侵略者を焼き尽くした光の球は、人間には一切の 危害を加えなかった。そのため、炎上した艦の不時着での怪我人はいても、死者は一人も出なかった。 ともかく、トリステインは奇跡的な勝利を収めた。更にゴルドンから採取された莫大な黄金が タルブ村から寄贈されたことで、軍の再建のために尽きかけていた国庫が例年の予算以上に潤った。 トリステインでは戦勝が祝われることになり、アンリエッタは国民から奇跡の勝利を国にもたらした 『聖女』と崇められた。そして戴冠式を経て女王の座に着くことが決定されたのだ。 同時にゲルマニア皇帝との婚姻の解消も発表された。ゲルマニアは一時は認めようとしなかったものの、 トリステインの立場が劇的に向上した以上、頑なな態度を取ることは出来なかった。アンリエッタは 自由の身になったのだ。 しかし魔法学院に帰還したルイズたちは、それとは別の話題を盛んに話し合っていた。 「しっかし、すごかったなぁ。『虚無』の魔法」 ルイズの部屋で、部屋の主を前にしながら、才人がナックル星人の軍勢に決定的なとどめを刺した 『虚無の魔法』について言及した。するとウルティメイトブレスレットの中のゼロと、姿見の中の ミラーナイトが同意する。 『全く同感だ。あれだけの数を一辺に仕留めるなんて、ウルトラ戦士でも難しいぜ』 『しかもそれでいて、攻撃対象の取捨選択まで出来るとは。まさに『魔法』としか言いようがありませんね。 そんな技が存在していようとは、宇宙の広さは侮れません』 「そ、そう? まぁ、ハルケギニアの伝説の魔法なんだもの。それくらいじゃないと、 むしろ拍子抜けしちゃうわよ」 ゼロとミラーナイトの言葉を聞いて、ベッドに腰かけているルイズは満更ではなさそうに髪をかき上げた。 彼女はゼロたちに『虚無の魔法』を持ち上げられて、自分が称賛されているようなこそばゆい気分になっていた。 何しろ、念願の自分の魔法なのだ。今まで何度夢見てきたことだろう。しかもそれを、何回も驚異的な力を 見せつけたゼロらに評価されるのは、彼らに並んだように思えて非常に気分が良かった。 特に才人にキラキラした目を向けられるのは、今まで味わったことがないほど快感だった。 さぁ、もっとわたしを褒めたたえなさい。そんなことまで考えるが、 「でも喜ばしいことは、それだけじゃないよな。何と言っても、ジャンボットが復活した!」 才人がもう話題を切り替えたので、ガクッと肩を落とした。それだけか! と言いたくなったが、 彼女を制して第三者が声を上げる。 『サイト、ありがとう。これからは、この鋼鉄の武人、ジャンボットのこともよろしくお願いする!』 畏まった挨拶をしたのは、才人に名前を呼ばれたジャンボット……だが、さすがに本体ではない。 部屋に入り切る訳がない。 復活したジャンボットは、ゼロのように人間に一体化することも、ミラーナイトのように 鏡の世界にいることも出来ないので、ジャンバードの状態で衛星軌道上に身を置くことになった。 有事の際には、そこから現場へ直行する。 代わりに部屋にいるのは、コックピットにあったモニター上部のリング型ランプを模したブレスレットだ。 これは一種の無線機で、ジャンボットの電子頭脳と直通している。ジャンボット当人がいられない場所で 仲間と連絡を取り合うために用意したものなんだとか。 「そして、私のこともお願いしますね! サイトさん!」 そしてその腕輪を嵌めて、にっこり笑ったのは、シエスタだった。 彼女はタルブ村での戦いの際、才人がゼロに変身するところを目撃していた。それを告白されると、 才人とルイズは隠し通さねばならない秘密を知られて大慌てになった。だが、シエスタは他の者に 言いふらすつもりはなかった。その代わりに、事情を全て説明し、これからは自分もウルトラマンゼロの 秘密を共有する仲間にすることを要求した。 そういう経緯があって、ジャンボットの腕輪を彼女が嵌めることになったのだ。 「サイトさん、それから私のひいおじいちゃん……違う世界の人だったんですね。驚きでいっぱいです。 でも、これからは私も一緒に戦います! よろしくお願いしますね、サイトさんッ」 「ありがと。でも、シエスタが戦うことはないだろ」 『その通りだ。戦闘は私の仕事。シエスタは私のサポートをしてくれるだけでいい』 「あッ、そうでしたね」 アハハとおかしそうに笑い合う才人とシエスタの様子を、ルイズはすごく不機嫌そうにながめた。 「……ねぇ、どうしてもシエスタを仲間に入れなきゃいけなかったの?」 姿見に首を向けてミラーナイトに尋ねかけると、彼はこう答えた。 『仕方ありませんよ。放置するより、仲間に入れておいた方が私たちも秘密をバラされないで 済むと安心できますし。それとも、ルイズはシエスタがいると何か不都合なのですか?』 「べ、別にそういう訳じゃないわ」 才人と自分だけで共有していた秘密に、シエスタが割り込んできたのが不愉快だからとは、 さすがに言えなかった。 「シエスタのことはもういいわ。でも、腕輪を所持する役割はわたしでも良かったんじゃないかしら? わたしの方が、サイトといる時間が多いんだし」 最後のひと言をわざわざ強調しながらジャンボットに問いかけると、当人からは次のように返答される。 『私もそれは考えたが、シエスタは私がこの星に一人きりで放り出してしまったササキの 曾孫だそうではないか。彼への負い目があるので、シエスタのことを側で見守っていたいのだ』 「『竜の羽衣』さん……ありがとうございます」 『ジャンボットと呼んでくれ』 ジャンボットの言い分を理解はするルイズだが、ジャンボットとともにあるシエスタと、 ゼロと一体化している才人、そして別にミラーナイトと一緒な訳ではない自分を見比べると、 シエスタに一歩追い抜かれたような気になってやはり気分を悪くした。 『けど、喜んでばかりもいられねぇぜ。大変なことが分かったからな。ヤプールのことだ……』 話の最中にゼロが、ナックル星人が死に際にしゃべった名前を挙げると、ミラーナイトや ジャンボット、才人の雰囲気も険しくなった。 『そうですね……。ゼロ、あなたのお父上が言っていた、大いなる邪悪の気配とは、ヤプール人の ことではないでしょうか?』 『その可能性は高いな。ヤプールは異次元人だ。宇宙間を渡り歩くことも、奴らには難しいことじゃないだろう。 事実、アナザースペースにも現れやがった』 『侵略者たちをこの宇宙へ連れてきたのも、ヤプールに違いあるまい』 「ヤプール人か……。話は散々聞いてたが、実際に出会う日が来るなんて、思いもしてなかったな」 和やかな雰囲気を一変させ、緊迫した空気で語り合うゼロたちに、「ヤプール人」を知らない ルイズとシエスタが質問する。 「そのヤプールってのは何者なの? 宇宙人とはまた別物なのかしら?」 「何だか、相当恐ろしい相手のようですが……」 『ああ、その通りだ。今までの敵とは訳が違う奴だぜ』 ゼロが二人に対して、ヤプール人の説明を行う。 『ヤプールはそもそも、俺たち惑星の上に生きる「人間」とは根本的なところから違う、 異次元生命体だ』 「イジゲン?」 『異次元の概念は、宇宙以上に説明が難しいから詳しくは省くが……要するに「こことは全く異なる世界」だ。 そしてその世界の生物のヤプール人は、「個人」という概念がない。全体で一個の「生命体」だ』 全体で一個、と言われてもシエスタにはピンと来なかったが、ルイズは大体のところを理解した。 「それはたとえるなら、ハルケギニア人が個別の意思を持たず、「ハルケギニア」という 巨大な意識の下にある、ということかしら?」 『まぁ、そんなところだ。だがヤプールは、奴らの世界である「異次元」そのものだから、 完全に殺すことが出来ない非常に厄介な存在だ。今まで何人ものウルトラ戦士が奴らを 倒してきたが、その度に復活しやがる。しつこくて敵わねぇぜ』 世界そのものが一つの生命とは、想像がつき難い。スケールの大き過ぎる話に、ルイズも シエスタも思わず黙りこくる。 『そしてここからがヤプールの最も厄介なところだが、奴らのエネルギー源は生き物の負の感情から生じる 「マイナスエネルギー」だ。だからより多くのエネルギーを求めるために、次元を超越する能力を使って いくつもの星を侵略しようと、魔の手を伸ばしてきた。おまけに奴ら、マイナスエネルギーを食ってるからか 性格が卑劣かつ陰湿。悔い改めるって言葉をまるで知らねぇから、始末が悪いのさ』 「俺の故郷、地球も何度かヤプール人に狙われたのさ。その度に、ウルトラ戦士が助けてくれたんだぜ」 才人が通信端末の画面をルイズたちに見せる。その中にはエース、タロウ、メビウスといった ウルトラマンの写真が映っている。 『私たちウルティメイトフォースゼロも、ヤプールと戦ったことがあるのです。厳しい戦いでした……』 『あの時は、まだいなかったジャンナインを除いた四人の心と力を合わせることでどうにか撃退したな。 だが今はグレンファイヤーがいない。この現状を狙われるのは危険だ』 ミラーナイトとジャンボットが言うと、ゼロが才人の中でうなずく。 『そうだな。早いとこ、グレンも見つけないと。あいつ、今どこにいるんだろうな?』 『もう到着していてもおかしくはないと思うのですが……遅いですね』 『もしや、私のようにどこかで動けない身になっているのではないだろうか?』 ジャンボットの意見に、考え込むミラーナイト。 『それも考えられますね……。では、私が捜索をするとしましょう。無事到着しているといいんですが……』 『私も衛星軌道上から捜すとする。あいつは目立つから、宇宙からでも見つけられるだろう』 『頼んだぜ、二人とも』 ゼロたちの会話は、それで一旦区切りがつく。するとすかさず、シエスタが才人に飛びついた。 「サイトさん!」 「おわぁッ!? 急にどうしたんだシエスタ!?」 身体を密着された才人が仰天し、ルイズも目を見開く。 「サイトさん、思えば、私の家族を助けてくれたお礼がまだでしたね。それだけじゃなく、 サイトさんが今まで何度も私たちを助けてくれてたんですよね。何とお礼をすればいいか!」 「そ、そんなのいいよ。ハルケギニアを守ってるのは俺じゃなくてゼロで、俺のしたことなんて ほんのちょっとしかないから……」 興奮しているシエスタを落ち着かせてそっとはがそうとする才人だが、そうすると余計に抱きつかれた。 ますます身体同士が密着して、才人の顔が真っ赤になる。 「いいえ、そんなことありません! 少なくとも、私にとってサイトさんはヒーローです! 是非ともお礼させて下さい! サイトさんが望むことなら、何だってします!」 「何でも!?」 「はい、何でも!」 シエスタの豊満な胸が自分に押しつけられ、ムギュウと形が変わる。それを見下ろし、 才人は思わずムホッ、と小さく変な声を上げた。 だがその直後に、強烈な怒気を感じ取って顔が青ざめる。振り返ると、ルイズがゴゴゴ…… という擬音が似合いそうなほどの怒りの表情を浮かべて、鞭を手に立ち上がっていた。 「ル、ル、ルイズ!? ま、待て! 落ち着くんだ! これは違う!」 「な~に~が~、違うのかしらぁ~?」 シエスタを離して必死になだめるが、こうなったルイズはもう彼の手には負えない。 いつものことだ。 「メイドなんかにいやらしい目を向けてッ! 何度言っても分からないわね! このエロ犬ぅー!!」 「ひいいいいッ!」 ルイズが鞭を振り上げると、才人が恐怖に震えて頭を抱える。いつものように、才人が ボロボロになるほどのお仕置きがすぐにも始まる。 『やめたまえッ!』 「えッ!?」 と思われたが、その直前にジャンボットが制止の声を上げた。思わぬ横槍に、ルイズは ついピタリと停止した。 動きの止まった彼女を、ジャンボットが激しく叱り出す。 『罪のないサイトを鞭打とうとは、何たる蛮行か! それでも淑女か!』 「で、でも……」 『口答えをするな! そこに座りたまえ!』 顔は見えないが、ジャンボットのあまりの剣幕にルイズは逆らえず、シエスタの前でペタリと 床に正座した。するとジャンボットの説教が始まる。 『良いか? そもそも私は、サイトの待遇に納得が行かんのだ。「使い魔」などと、彼の人権を無視している。 故意に選出した訳ではないとはいえ、頼るものがないのをいいことに彼をこき使い、あまつさえ藁の上に 寝かすなど、言語道断! まるで奴隷ではないか! 私はここに、サイトの待遇の改善を要求する!』 「いや、ある程度は俺も納得してることだし、最近は良くなってるし……」 『部外者は黙っていたまえ!』 口出ししたら、お叱りを受ける才人。俺が当事者なんだけど……と思ったが、とても入り込める様子ではなかった。 『しかも今度は、彼が異性と密着していただけで犬呼ばわりして侮辱し、暴力を振るおうとする始末! もう我慢がならんぞ! 君には羞恥というものがないのか!?』 説教が先ほどの状況のことになると、ルイズは反論する。 「た、ただくっついてたから怒ったんじゃないわ! サイトが、シエスタをいやらしい目で見てるから! 使い魔の品性は召喚主のわたしの品位につながるのよ! そこは正さなくっちゃ……!」 だがジャンボットは引き下がらなかった。 『そんなものは、君の主観ではないか! サイトがふしだらな態度を取ったという証拠はあるのか!?』 「そ、それは……ないけど……」 『ほら見たことか! 少なくともサイトは、一切卑猥な行為を働いていない! シエスタと ともにある私はよく分かる! 証拠もなしに、彼を理不尽に罰しようなどと、無礼にも程がある! 恥を知りたまえ!』 「う、うぅ……」 『私が仕えているエメラナ姫は、まことに心が広い、寛大なお方だ! ルイズ、君も貴族を 名乗るならば、姫様のようなお人になることを目指すべきだと……!』 畳みかけるようにガミガミ叱るジャンボット。それを端からながめているデルフリンガーが、 ミラーナイトに話しかける。 「あのジャンボットって奴、すげえな。娘っ子がタジタジになるとこなんて、初めて見たぜ」 『ジャンボットは融通の利かないところがあるほど厳しい性格ですからね……。ああなった彼を かわせるのは、グレンファイヤーくらいでしょう』 それからしばらく、ジャンボットの説教は続いた。そのためその間は、ルイズがメイドの シエスタの前で座り込んで頭を垂れるという、普段の彼女を知る者が見たら目を疑いたくなる 光景が続くことになった。 ……しかしルイズは、熱い説教を受けても才人への態度を考え直しはしなかった。むしろ、 こんなことを考えた。 「証拠がないのがいけないんでしょ……。だったら、あるようにすればいいんだわ……」 その考えが、翌日に大変な騒動を起こすことになる。 日付が変わり、ルイズの部屋。トリスタニアで戦勝祝いのお祭りが開催されるのだが、 それに向かう直前に、才人はルイズからあるものをプレゼントされた。 「何だこれ。眼鏡?」 才人が受け取ったのは、縁を宝石で彩った派手な眼鏡だった。舞踏会用のマスクにも見える。 「俺、目は割といい方だけど?」 「ただの眼鏡じゃないわ。昔から我が家に伝わる秘宝の一つを、お姉様に頼んで送ってもらったの」 「へー……」 説明を聞きながら、試しに眼鏡を着用してみる才人。背を向けているルイズが、グッと ガッツポーズを作ったのにも気づかずに。 「ふーん? 度は入ってないみたいだな……」 才人はすぐに眼鏡を外そうとするが、何故か顔にピッタリと貼りついて、はがれない。 「あれ? 外れねぇんだけど!?」 「さ、さぁ、出掛けるわよぉ!」 「えッ? このまんま?」 才人が奮闘している間に、ルイズは丸で無理矢理話題を切り替えるかのように、さっさと 部屋を後にした。仕方なく、才人はその背中を追いかけていった。 寮塔を出た二人は、早速洗濯物を入れた籠を運んでいるシエスタに出くわした。 「おッ、シエスター!」 「サイトさん! ……?」 才人に呼び止められて振り返ったシエスタは、すぐに才人の顔に掛かっている眼鏡に疑問を持つ。 「サイトさん、それ、何ですか?」 「これはルイズがくれたものでさ。それより、よかったらお祭り一緒に行かない?」 「いえ、私はまだ仕事がありますから……」 シエスタも誘う才人が、ふと彼女の胸元に目を落とした。 「うおッ!? これは……!」 何と、シエスタのふくよかな胸が、カゴの縁に押し上げられて強調されているのだ。 この何気なくも強烈な画に、才人は思わず目を奪われる。 その瞬間に、眼鏡の中央の一番大きな赤い宝石が点滅して光り出した。丸で危険を知らせる カラータイマーのように。 「? あ、あの……その眼鏡、急に光り始めましたけど……」 「えッ? な、何だこれ? 急にどうして……」 眼鏡の存在を思い出した才人は取り外そうとするが、やはり顔に密着していて外れなかった。 すると、 「外れないわよ……」 後ろからルイズの、地獄の底から響くような剣呑な声がした。才人が恐る恐る背後に目を向けると……。 「その『メデューサの眼鏡』はマジックアイテムなの……。送り主であるわたし以外の女の子を いやらしい目で見ると、周りの宝石が光るようになってるのよ……」 ルイズが、ゴウゴウと憤怒の炎を燃えたぎらせている……ように才人には見えた。 「な、何だよそれ! そんなの聞いてねぇぞぉー!」 必死に眼鏡を外そうともがく才人だったが、ルイズが杖をバシンッ! と鳴らしたので、 恐怖で動きが止まる。 「使い魔の分際で、他の女の子をいやらしい気持ちでながめるなんて……卑猥な目で…… 血走った目でぇぇぇぇぇ!!」 ルイズの怒声が頂点に達すると、振り上げられた杖の先端が猛烈に光った。 魔法学院の庭から、轟音と共に黒い煙が立ち昇った。 「ふんッ!!」 そして後には、黒こげになった才人が転がった。するとシエスタの腕輪から、ジャンボットが 慌てふためいた声を上げる。 『ル、ルイズ! 君は、何ということをッ!』 怒りも見せているジャンボットだったが、今回はルイズの方が何倍も怒りが深かった。 「何か文句でも!? 今回は、ちゃんと証拠があったわよ! 証拠なしに罰するのがいけなかったんでしょ!?」 『い、いや、確かにそんなことを言ったが、さすがにこれはやりすぎでは……』 ルイズのあまりの剣幕に、今度はジャンボットがタジタジする側になっていた。 「これでも手加減はしたわ! そこんところは、わたしがよく分かってるんだから! じゃあ、わたしたちはお祭りに行くから、これで!!」 有無を言わせないまま、倒れた才人を腕ずくで引きずっていく才人。シエスタとジャンボットは それを呆然と見送った。 『い、行ってしまった……。確かにサイトに非はあったが、何もあそこまで怒らなくとも いいのではないだろうか? 何も、彼がルイズに不利益になるようなことをした訳でもないだろうに……』 「あはは……。男女の間は、難しいものなんですよ……」 戸惑うジャンボットに、シエスタが愛想笑いを浮かべつつ語った。 『そういうものなのか? うぅむ、人間の心というものは、この私の頭脳をもってしても 度し難いものなのだな……』 ロボットなので、そういうことには疎いジャンボットはうなり声を上げた。 それから数時間後……。 『おい才人、もうちょっと自制心ってものを持てよ……。いい加減こっちまで痛くなってきたぜ……』 「そんなこと言われたって……。俺だって、好きでこの眼鏡鳴らしてる訳じゃねぇよ……」 トリスタニアで、アンリエッタのパレードを待つ列に混ざりながら、ボロボロになった 才人がゼロから文句を言われていた。 魔法学院からトリスタニアに移動するまでの間、『メデューサの眼鏡』はほぼ鳴りっぱなしだった。 才人が女性を見る度に鳴り出しているようにも思えるほどに。判定は相当厳しいようだ。 『いっそのこと、ずっと目を閉じてた方がいいんじゃないか? 誘導は俺がするからさ』 「すまないな。変なことになっちゃって……」 ゼロの好意に預かり、目を閉ざす才人。しかしその直後に、戴冠式を終わらせて女王となった アンリエッタのパレードがやってくる。 「あぁッ、姫さまぁ!」 才人のせいですっかり不機嫌になっていたルイズだが、さすがにアンリエッタの姿を目の当たりにすると、 不機嫌さは吹き飛んで一気に恍惚とした表情になった。 「見て見て! サイト、目をつむってる場合じゃないでしょ? 姫さまがあんな立派なお姿に!」 促されて、才人も目を開けてアンリエッタの姿を見やる。 「おぉ……」 思わず、声が漏れた。今のアンリエッタの、式典用に美しく着飾ったドレス姿に目を奪われた。 特に、ドレスの上からでも存在を主張している胸元の膨らみに……。 「サイト……」 「はッ!?」 気がつけば、また眼鏡がけたたましく鳴っていた。そして目の前には、鬼の形相をした ルイズが回り込んでいた。 「よりによって姫さまに、女王陛下にいやらしい目を向けるなんてぇ……」 「ま、待てルイズ! ここはまずい!」 バチバチ杖がスパークしているルイズを止めようとする才人だったが、無駄だった。 「あんたって超最低―――――――!!」 今日一番の爆発が起こった。 「……」 『おい才人、大丈夫か?』 そして才人は、城の地下牢の中で転がる羽目になった。先ほどの爆発を、爆破テロと勘違いされて とっ捕まったのだ。 『メデューサの眼鏡』は、壊れて才人の顔から外れていた。さすがに着用者が何度も爆発を 食らうという事態は想定していなかったようだ。 「くそ……何がプレゼントだッ!」 散々な目に遭った才人は怒りのままに眼鏡を投げ捨てようとしたが、ルイズの顔を思い返すと その意気がしぼみ、力なく腕を降ろした。そして眼鏡の残骸を懐にしまう。 「俺ってやっぱ、こういう扱いなのか……」 『元気出せよ。ルイズがすぐに誤解を解いてくれるさ。すぐにここから出られるぜ』 落ち込む才人を励ますゼロ。そのすぐ後に、牢の扉が外から開かれる。 『お? 随分と早いな』 才人とゼロが扉に目を向けると、見慣れないメイドが一人だけ、扉を開放して牢に入ってきた。 「サイト・ヒラガさん、でよろしいでしょうか?」 「そうですけど……えっと、あなたは?」 「私は女王陛下に、誤解で捕らえられたあなた様を釈放するよう命じられた者です。外まで ご案内致しますので、どうぞついて来て下さい」 「あッ、わざわざすいません」 へこへこ頭を下げて、メイドと一緒に牢を出ようとする才人。だがその時、 「あら? 扉が開いてるわ……?」 「へ? 今の声……」 外から聞き覚えのある、涼やかな声が聞こえたので、驚いて足を止める。メイドは何故か慌て始めた。 「使い魔さん? いらっしゃいますか?」 「えッ? 女王陛下!?」 入り口から顔を覗かせて中に入ってきたのは、メイドを遣わしたはずのアンリエッタ当人だった。 呆然としている才人は彼女に尋ねかける。 「どうしてここに?」 「ルイズとともに話があるので、会いに来たんですが……ここの扉、誰が開けたのかしら?」 「そこのメイドさんですけど……女王陛下が寄越してくれたんでしょ?」 冷や汗を垂らしているメイドを指して聞き返すと、アンリエッタはキョトンとした。 「わたくしが? そんな覚えはありませんが……」 「へ? じゃあ、この人誰?」 どうも話が噛み合わないでいると、外から剣を腰に佩いた女兵士がズカズカ踏み込んできて、 メイドに銃を突きつけた。 「陛下、お下がりを! 貴様、何者だ! 正体を現せ!」 突然入ってきた女兵士について、才人がアンリエッタに尋ねる。 「この人は?」 「新しく組織した近衛隊の銃士隊隊長、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランです」 そのアニエスに対し、メイドは汗をかきながら答える。 「わ、私は王宮に仕える一介のメイドですよ。そんな、正体なんて……」 「とぼけるな! 私は王宮に仕える人間は、たとえ小間使いであろうと一人残らず顔と名前を記憶している。 王宮の勅使が侵略者の傀儡になる事件があったからな。その中に、貴様の顔はない。言え! どこから送られた間者だ!」 論破されたメイドは、一瞬で冷酷な表情を顔に浮かべた。 「バレてしまったのなら仕方ないッ!」 そしてアニエスの虚を突いていきなり才人に飛び掛かり、タックルをかました。 「うぐッ!?」 「使い魔さん!?」 うめいた才人は、懐をまさぐられて中の物を奪い取られた感触を覚えた。 「なッ! あんた!」 「貴様!」 アニエスがメイドに発砲するが、メイドは人間離れした軽やかさで跳躍し、牢の入り口から脱け出た。 「ふふふ……文明の遅れた原始人だと高をくくって甘く見ていたか。いいだろう、本当の姿をお見せする……」 不敵な笑みを見せたメイドの姿がたちまち変化し、体色が鋼の色をした怪人へと変身した。 頭部の輪郭は虫かカニに似ていて、顔つきは能面によく似ている。 『私はレスカウト星系マノン星の宇宙人。宇宙人連合の刺客のマノン星人だ!』 メイドに化けてトリステイン城に侵入していた宇宙人は、自らをそう名乗った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9140.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十六話「トリスタニアの奇跡」 地獄星人ヒッポリト星人 暴君怪獣タイラント 宇宙大怪獣アストロモンス 宇宙大怪獣改造ベムスター 光熱怪獣キーラ 宇宙スパーク大怪獣バゾブ 登場 トリステイン女王アンリエッタの、突然の失踪。それは内通者リッシュモンをあぶり出すために 仕掛けた、アンリエッタの罠であった。しかしリッシュモンは既にヒッポリト星人に魂を売り渡しており、 卑劣にも故郷トリステインを焼き払うためにネオパンドンを呼び出した。その危機に立ち向かったのは、 我らがウルトラマンゼロ。彼は改造により戦闘力が上昇したネオパンドンをも打ち倒した。 しかし、ヒッポリト星人の計画はそこで終わりではなかったのだ。ネオパンドンを倒したばかりのゼロに、 タイラントを筆頭とした宇宙大怪獣軍団が襲い掛かる。ゼロの窮地にウルティメイトフォースゼロが 駆けつけたのだが、それこそがヒッポリト星人の狙い。ウルティメイトフォースゼロは隙を突かれ、 全員ヒッポリトカプセルの中に閉じ込められてしまった! このままではゼロたちがブロンズ像に変えられ、トリステインは壊滅してしまう。これを救えるのは ルイズだけだが、そのルイズにも、侵略者の手先となり果てたリッシュモンの魔の手が伸びていた。 危うし、ルイズ! 『グワハハハハハ! 怪獣どもよ、もっと暴れろぉ! 街を地獄に変えるのだぁーッ!』 ヒッポリト星人の命令により、五大怪獣がトリスタニアで大暴れする。 「キイイイイィィィィッ!」 ウルティメイトフォースゼロが閉じ込められて手が出せないのをいいことに、タイラントは 口から爆炎を吐き、家々を片っ端から爆破、炎上させる。 「くそッ! やめろぉッ!」 「キュイイイイイイ!」 怪獣たちの猛威をどうにか食い止めようと奮闘している魔法衛士隊だったが、キーラが彼らに閃光を浴びせる。 「うわああああ―――――――!?」 騎士と飛竜、どちらも視界を潰され、大多数の騎士が落とされてしまった。 「カ―――ギ―――――!」 竜騎士たちが羽虫のようにボトボトと落ちる様を背景に、改造ベムスターは腹の口で家屋をもぎ取り、 そのまま呑み込んだ。ベムスターは腹の口で、どんなものでも捕食してしまうのだ。 「キイイィィィ!」 アストロモンスは花より消化液を噴出し、街の一画をドロドロに溶かす。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 バゾブは電撃光線で、広範囲を一気に焼き払った。 「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!」 「助けてぇぇぇぇぇぇぇッ!」 「ト、トリステインはもう駄目なのか!?」 人々は怪獣の猛威になす術なく、逃げ惑うばかり。だが五体もの怪獣に追い回されて、 どこまで逃げられるだろうか。どんどん逃げ場はなくなっていく。 『くっそぉッ! あんな奴らの好きにさせたままだなんて! このッ! このぉッ!』 ゼロは人々を踏みにじる邪悪なヒッポリト星人の軍団と、あっさりと罠に嵌まって無力化された 不甲斐ない自分への怒りをカプセルにぶつけるが、やはりヒッポリトカプセルが壊れる気配は 微塵もなかった。そうしている内にも、ヒッポリトタールによって身体が徐々に固まっていく。 焦るグレンファイヤーたち。 『や、やべぇッ! このまんまじゃ、みんなお陀仏だぜ! くっそぉ、またブロンズ像化は嫌だぞッ!』 『しかし……最早打つ手がありません……!』 『くッ! 万事休すか……!?』 『無駄だ無駄だぁッ! お前たちに出来ることは、もう死ぬことだけなのだぁッ! フハハハハハハハッ!』 必死にあがくゼロたちを、ヒッポリト星人が余裕綽々の態度で嘲笑した。 「くッ……もう時間が……!」 地上からルイズが、だんだんと固められていくゼロたちを見上げて、彼らと同じように焦燥していた。 しかし目の前のリッシュモンが杖を向けていては、彼らを助けられない。 「無駄な抵抗をするな。私としても、女子供を無用に痛めつけたくはない」 うそぶくリッシュモンに、ルイズは鋭い視線を飛ばす。 「リッシュモン! 貴族の誇りを捨て、祖国を裏切って、恥ずかしいと思わないの!? 曲がりなりにも 上流貴族でしょう!」 と非難するも、リッシュモンは鼻で笑うばかり。 「フフフ、実に子供らしい青臭い台詞だな。誇りと愛国心で財産を得られ、甘い蜜が吸えるのならば、 私もそうしようではないか」 「……貴族の風上にも置けない下衆ねッ……!」 嫌悪感を剥き出しにするルイズだが、だからと何かが出来る訳ではない。呪文が長い『虚無』の魔法では、 既に呪文を完成させているリッシュモンにどうあがいても速さで勝てない。 (トリステインもわたしも、ゼロたちも、サイトも……こんなところで終わりなの!?) 絶望感に目の前が暗くなりかけた、その時のことである。 突然上から、誰かが自分とリッシュモンの間に降り立ち、リッシュモンに銃を向けた。 すぐ側の家の窓から飛び降りてきたようだ。 この事態に、リッシュモンのみならずルイズも驚く。 「えッ!?」 「ラ・ヴァリエール殿。早くお逃げを」 リッシュモンから目を離さないまま、ルイズを助けに入った、アニエスがそう告げた。 我に返ったルイズは、すぐにその言葉に従った。 「ありがとうッ!」 短く礼を告げて、全速力でリッシュモンと反対方向、ゼロたちの方へと走っていった。 リッシュモンは忌々しくアニエスをにらみつける。 「貴様か……。余計な真似を」 リッシュモンは既にアニエスと顔を合わせていた。彼女が平民であることはもう知っている。 そのため、最初から舐めて掛かっていた。 「どけ。私には、貴様を殺す手間を掛ける暇もないのだ。私は既に魔法を解放するだけだし、 銃などこの距離ならば当たらぬぞ。とっとと去ねい。平民が、命を捨ててまでアンリエッタに 忠誠を誓う義理などあるまい」 ゴミを見るような目で脅しを掛けるが、アニエスは一歩も動かない。逆に、目に憎悪を宿して リッシュモンをにらみ返した。 「私が貴様を殺すのは、陛下への忠誠からではない。私怨だ」 「私怨?」 「ダングルテール」 そのひと言だけで、リッシュモンは理解したようだった。下卑た笑みを浮かべる。 「貴様、あの村の生き残りだったか!」 アニエスは唇をぎりっと噛み締めた。唇が切れて血が流れる。 「ロマリアの異端諮問“異教徒狩り”。貴様がわが故郷が“新教徒”というだけで反乱をでっちあげ、 今この時と同じように踏み潰した。その見返りにロマリアの宗教庁からいくらもらった?」 リッシュモンは唇を吊り上げた。 「金額を聞いてどうする? 賄賂の額などいちいち覚えておらぬわ」 「金しか信じておらぬのか。侵略者につけ込まれるのももっともな、あさましい男よ」 「お前が神を信じることと、私が金を愛すること、いかほどの違いがあると言うのだ? お前が死んだ肉親を 未練たっぷりに慕うことと、私が金を慕うこと、どれだけの違いがあると言うのだ?」 「殺してやる。貯めた金は、地獄で使え」 「お前ごときに貴族の技を使うのはもったいないが……、これも運命かね」 リッシュモンが呪文を解放し、杖の先から火の球がアニエスへと飛ぶ。それに対し、アニエスは……銃を投げ捨てた。 「なに?」 マントを翻して火の球を受ける。マントは一瞬で燃え尽きたが、中に仕込まれた水袋が蒸発して 火の球の威力をそいだ。だが消滅はせず、アニエスにぶつかる。 「うぉおおおおおおおおおおおッ!」 しかしアニエスは耐え、リッシュモンへ突進し続けた。そして剣を抜き放ち、リッシュモンの懐に飛び込む。 「うお……」 リッシュモンの口からは、呪文の代わりに鮮血があふれた。胸に剣が刺さり、背中から刃が飛び出ていた。 「メ……、メイジが平民ごときに……、この貴族のわたしが……、こんなおもちゃに……」 「……これはおもちゃではない」 リッシュモンから剣を引き抜くアニエス。貫通して出来た穴から、血液がごぼっとあふれ出た。 「剣は“武器”だ。我らが貴様ら貴族にせめて一かみと、磨いた牙だ」 リッシュモンの身体が崩れ落ちる。アニエスは深い火傷を負った身体を強靭な精神で支え、 死体を冷ややかに見下ろした。 アニエスがリッシュモンに裁きを下したのと前後して、彼女に助けられたルイズは改めて呪文を唱え、 ゼロたちを捕らえるカプセルへ解き放った。 「『爆発』!」 途端に四つのカプセルが閃光に呑まれた。それを目の当たりにして、ヒッポリト星人は言葉を失う。 『な、何ぃッ!? この光は……!』 光が収まると、カプセルは全て消え去り、タールも落ちたウルティメイトフォースゼロの四人が、 街の中に立っていた。青いカラータイマーを胸に光らせるゼロが、ヒッポリト星人を指差す。 『残念だったな、ヒッポリト星人……勝負はここからだぜッ!』 『ふぃ~! せまっ苦しかったぜッ!』 グレンファイヤーが肩をグルグル回して身体をほぐした。 『おのれぇ、しくじったな! やはり人間なんぞを頼ったのが間違いだった!』 一方、用意周到な作戦を破られたヒッポリト星人は激しく悔しがり、街を破壊している怪獣たちを呼び戻す。 『怪獣たちよ、早く集まれ! こうなったら総力戦だッ! 叩き潰してやるッ!』 「キイイイイィィィィッ!」 「キュイイイイイイ!」 「カ―――ギ―――――!」 「キイイィィィ!」 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 命令するヒッポリト星人の前に五大怪獣が並び、ウルティメイトフォースゼロに突撃していく。 『望むところだ! みんな、行くぜぇーッ!』 『うおおぉぉー!』 ウルティメイトフォースゼロも雄叫びを上げ、怪獣軍団と再度激突した! ゼロたちと怪獣軍団の激突を、マンティコアにまたがる魔法衛士隊隊長ド・ゼッサールは 苦々しく見守っていた。 「結局はこうなるのか……。やはり我々は、無力な存在なのか……」 ゼロたちの奇跡の復活を喜ぶ反面、本来国を守る役目を担う自分たちが怪獣に歯が立たず、 助けられてばかりというのは胸が苦しい思いだ。しかし現実として、自分たちに出来ることはない……。 思い詰めていると、一人の竜騎士が慌ただしくゼッサールの元に飛んできて、次のことを告げた。 「報告します! 王立魔法研究所(アカデミー)で開発中だった、対怪獣用兵器が完成したとのこと! また、その使用許可も下りました!」 「何!? 遂に完成したのか!」 驚くゼッサール。アカデミーはその名の通り、トリステインの魔法研究施設で、現在は相次ぐ 怪獣被害に対抗するための新兵器開発を推し進めていた。それがとうとう完成し、しかもすぐに使えるという。 それを知ると、気を落としていたゼッサールは、たちまちの内に士気を盛り返した。 「分かった! ハルケギニアは、我々人類の手で守らねばならん! すぐに使用しよう! 何回使える?」 「残念ながら、怪獣一体分が限度とのことです」 「それで十分だ。では……」 空から戦場の様子を見下ろすゼッサール。 「キイイイイィィィィッ!」 「カ―――ギ―――――!」 『うおぉぉッ!』 タイラントと改造ベムスターがゼロの前後から、腹からの冷凍ガスと光線を食らわせていた。 さすがのゼロも、挟み撃ちにされて手を焼いている。それを援護するのが最も良いと、 ゼッサールは瞬時に判断した。 「あの平たい怪獣に狙いを絞るぞ! 総員、集合せよ!」 まだ飛んでいる騎士を集めたゼッサールは、二つの新兵器の仕様を聞き出し、即座に作戦を打ち立てた。 その手筈を、全員にしっかりと伝える。 「まずは怪獣の動きを止めるところからだ。この役目は、私が引き受ける」 「隊長自ら!? 危険です!」 一人の騎士が泡を食って止めに掛かったが、ゼッサールは不敵に笑ってそれをさえぎった。 「我々が、これまで暴威を振るってきた怪獣に反旗を示す栄誉ある一番槍を、お前たち若造に 譲ってやる訳にはいかんな。……何、命だけは拾って帰るさ」 ゼッサールの言葉は、半分は本当だった。一番危険な役目を部下に任せられないという気持ちもあるが、 今度の新兵器と作戦は、平民が貴族に対抗する牙として「剣」を磨いたように、怪獣に対抗するための 自分たちの牙なのだ。それを自身の手で成功させたい。人類が決して無力な存在ではないことを、この身で示すのだ! 「万事ぬかるんじゃないぞ! では、作戦開始!」 指示を出し、ゼッサールはマンティコアを駆って改造ベムスターの頭上へ慎重に移動した。 相手がこちらに気づかない内に……その顔面に飛び移る! 「とうッ!」 命を省みない、捨て身の作戦。しかしその甲斐あり、改造ベムスターの眼球の真下に張りつくことが出来た。 そして『エア・ニードル』の呪文で、相手の下まぶたの内側を切り裂く! 「カ―――ギ―――――!!」 たちまち黄色い血が噴水のように噴き出し、改造ベムスターは激痛に耐え切れずにゼロの背後から離れた。 あらゆる攻撃を受け止める驚異の防御力を持つ怪獣といえども、身体の全てが固い訳ではない。 特に、普通ならまず攻撃が当たらないまぶたの裏はブヨブヨ。普通の刃物でも切り裂くことが出来る。 狙うのは当然非常に危険だが、その効果は十分にあった。 血が片方の目玉にベッタリ付着して、遠近感を失った改造ベムスターは立ち尽くす。そこにすかさず、 作戦の第二段階が発動した。 「怪獣め! この特製火石をたっぷりと味わえ!」 竜騎士二人が、人工的に作った巨大火石を抱え上げて、改造ベムスターへと接近していく。 これは大量の火石を、何人ものスクウェアクラスメイジが数日間休まずに作業して、一つにしたもの。 莫大な火力が石の中に眠っている、最早火石ではなく強力な「エネルギー爆弾」だ。一つ作るだけでも 手間と人員が掛かりすぎるので、人間の戦争に利用できるものではないが、怪獣相手の切り札には十分に使える。 改造ベムスターが腹から家屋を呑み込んだので、腹が口だということは理解している。 竜騎士たちは、腹の口にエネルギー爆弾を放り込んだ。 「カ―――ギ―――――!」 何でも食らうベムスターだが、爆弾のエネルギーが大きすぎるため、吸収に手間取る。 そして魔法衛士隊は、とうとう作戦の最終段階に移行した。 「これで、とどめだッ!」 ゼッサールを部下が救助すると、四匹の飛竜が改造ベムスターの正面に回った。飛龍は、金色の巨大な大砲を 吊り下げている。これこそが本命の新兵器。トリステインの魔法技術の粋を集めて作り出した、ハルケギニア史上初の光線砲である。 トリステインは、侵略者の脅威の科学力と兵器を逆利用できないものかとずっと考えていた。 そこで、ゼロたちが撃破した円盤やロボットの残骸を密かに回収し、研究していたのだ。 だが現実は甘くなく、宇宙人の科学の産物の仕組みは全く理解できなかった。しかし始祖ブリミルは、 完全に見放してはいなかったらしい。唯一キングジョーに搭載されていたビーム砲が生きていて、 連日に亘る錬金による、杖に血がにじむような努力が実って、制御することに成功したのだ。 それがこの光線砲。名前は、キングジョーから取り、『キング砲』だ! 「行くぞ! キング砲、発射ぁッ!」 竜騎士の魔法がスイッチとなり、キング砲から稲妻状の光線が発射された。光線は改造ベムスターの 腹の中の、エネルギー爆弾に命中する。 瞬時に発生する、壮絶な爆発! 改造ベムスターは身体の内側からの熱と衝撃に耐えられず、 木端微塵に吹っ飛んだ! 「やった、成功だ……! やったぞぉぉぉぉー!」 その光景を目にして、ゼッサールは大歓声を上げた。自分たちが、初めてウルトラマンたちの 手も借りずに、怪獣を撃破したのだ。 だが、仕組みを理解している訳ではないキング砲を使用できるのは、たった一回きり。 残りの怪獣たちは、ゼロたちに任せることとした。 『うおぉッ! すげぇ! 人間が大怪獣をやっつけたぜ!』 アストロモンスを抑えていたグレンファイヤーが、改造ベムスターが撃破されるところを 目撃して歓声を上げた。 『よっしゃ! 俺も負けてらんねぇぜ! うらぁぁッ!』 「キイイィィィ!」 相手の鞭の振り下ろしを受け止め、顔面にパンチを決める。アストロモンスはフラフラと後退した。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 『むうぅッ……!』 その一方で、ジャンボットはバゾブの磁界で動きを制限されたところに、電撃光線を食らってよろめいた。 『焼き鳥、大丈夫か!? 代わろうか?』 『私はジャンボットだ! それに、その必要はない……』 『必要はないってお前、相性最悪じゃんか……』 心配するグレンファイヤーだが、ジャンボットはそれを振り払うように告げる。 『この星の人間が諦めずに戦っているのだ。私も、この程度で根を上げていられん! 見ていろッ!』 ジャンボットが突然、ブースターから火を噴いて大空に飛び上がった。バゾブは思わず目で追って見上げる。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 飛び上がったジャンボットはバトルアックスを構えると、バゾブの頭上からまっさかさまに 落下を開始した! 目を見張ったバゾブが逃げようとしたが、その時にはもう遅く、 ジャンボットは頭のすぐ上へと迫っていた。 機械の動きを止めるバゾブの電磁波だが、自由落下してくる物体を止めることは出来ない。 50メイルの質量のロボットの激突と、それに伴うバトルアックスの斬撃を食らったバゾブは、 頭頂部から真っ二つにされて爆散した。 『ふッ……ざっとこんなものだ』 『おおぉぉッ! お前も随分と無茶なことするなぁ焼き鳥』 『私の名前はジャンボットだと言っているだろう!』 戦闘中まで相変わらずのやり取りをしたグレンファイヤーの背後から、アストロモンスが鞭を振るう。 しかしそれを気取っていたグレンファイヤーは、その鞭をはっしと掴んだ。 『うらぁぁぁぁ―――――――!』 「キイイィィィ!」 そして豪力を発揮して、鞭ごとアストロモンスをハンマーのように振り回して投げ飛ばした。 放物線を描いて落下するアストロモンスへと駆けていくグレンファイヤー。 『ファイヤースティィック!』 炎の如意棒を出すと、頭から落ちてくるアストロモンスの花の中央にファイヤースティックを突き刺した。 それによってアストロモンスは火炎に包まれ、爆発四散した。 『うっしゃあッ! こっちもいっちょ上がりだぜ!』 怪獣を撃破したグレンファイヤーは、頭をかき上げて炎を燃え上がらせた。 『シルバークロス!』 「キュイイイイイイ!」 ミラーナイトはキーラにシルバークロスを当てたが、スペシウム光線も易々と受け止めるキーラの甲殻は、 シルバークロスでも傷一つつかなかった。そしてキーラは、まぶたを閉じて閃光発射の構えを取る。 『! はぁッ!』 ミラーナイトは、キーラが目を開けるタイミングに合わせて、自分の前面に巨大鏡を作り上げた。 「キュイイイイイイ!?」 閃光は鏡によって跳ね返り、キーラは自身の目が潰された。そして大きくひるんだキーラに、 ミラーナイトがミラーナイフを放つ。 『やッ!』 ミラーナイフは動きを止めたキーラの、わずかな甲殻の隙間に見事突き刺さった。全身にミラーナイフを 食らったキーラはダランと腕を垂らし、後ろに倒れ込んで爆散した。 『鏡作りが得意な私に、光で挑んだのが間違いでしたね』 ミラーナイトは肩をすくめて、息絶えたキーラに告げた。 「キイイイイィィィィッ!」 『うおらッ! ……くッ! しぶといな!』 最後に残った怪獣はタイラントだ。だが超獣ハンザギランの不死身に近い生命力を受け継いだタイラントは、 ストロングコロナゼロの打撃を何発も食らっても応えた様子がなかった。あらゆる怪獣の優れた点を併せ持つ 恐るべき合体怪獣を、ゼロはどうやって攻略するのか。 「キイイイイィィィィッ!」 タイラントは再びゼロの首を締めようと、フックつきロープを飛ばす。 『同じ手食らうかよ!』 だがその攻撃を見切っていたゼロは、ロープをはっしと掴んだ。 この時、ゼロに名案が浮かぶ。 『この手で行くぜ! ぜあぁッ!』 早速作戦を実行するゼロ。額からエメリウムスラッシュを発射して、掴んだロープを焼き切る。 「キイイイイィィィィッ!」 引っ張っていたロープがいきなり切れたことで、タイラントはバランスを崩して背後に倒れ込んだ。 相手が起き上がらない内に、ゼロはルナミラクルへと再変身した。 『行くぜ! ウルトラゼロランスだぁッ!』 フックを掲げたゼロは、ルナミラクルの超能力とブレスレットの力により、それをウルトラゼロランスに変えた。 そして、タイラントへと投擲! フックを変えたランスには、タイラントのパワーが上乗せさせる形で宿っている。そのパワーが、 タイラントの生命力を相殺する! 「キイイイイィィィィッ!」 ランスが腹部に深々と突き刺さったタイラントは、大爆発を起こして塵も残さず消え去った。 『なッ!? ば、馬鹿な! 私が選りすぐった大怪獣軍団が、全滅だとぉ!?』 怪獣たちを全て失ったヒッポリト星人は大いに動揺する。その彼に、通常状態に戻ったゼロが 指を向けて言い放った。 『残るはお前だけだ! もう観念しろ! 人間を舐め切ったテメェの負けだぜ!』 高々と告げるも、ヒッポリト星人は負けを認めず、逆上した。 『黙れぇッ! この偉大なるヒッポリト星人が、貴様ら如きに敗北するはずがないッ!』 頭部の突起や両眼、両手などあらゆる箇所からビーム、ミサイルを乱射して、ウルティメイトフォースゼロを 狙い撃ちにする。 『うおおぉぉぉッ!』 『くッ! あくまで悪あがきしますか……!』 『見苦しいぜッ!』 ゼロたちは弾幕によって動きを縛りつけられる。しかしここに来てヒッポリト星人は、 人間の力を度外視していた。 「これで最後だ! 十文字作戦ッ! あの突起を狙うんだ!」 魔法衛士隊が残った力を出し切って、頭頂部の突起に十字砲火を浴びせた。 「キョオオオオオオオオ!」 発光部に魔法の集中攻撃を食らったヒッポリト星人が麻痺した。その隙に、ウルティメイトフォースゼロの 一斉攻撃が放たれる! 「シャッ! シェアァッ!」 『シルバークロス!』 『ビームエメラルド!』 『グレンスパァーク!』 ワイドゼロショットを始めとした、四人の必殺技が命中。ヒッポリト星人は跡形もなく木端微塵になった。 「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!」 怪獣軍団の首魁を倒したことで、ハルケギニア中の人々が割れんばかりの歓声を発した。 魔法衛士隊には、ゼロたちが大きく手を振る。 「隊長、見て下さい! あれはきっと、私たちへの感謝と友好の印ですよ!」 「うむ……我々はとうとう成し遂げたのだ。彼らと戦場で並び立つことを……!」 ド・ゼッサール隊長を始めとした魔法衛士隊は、胸がいっぱいになっていた。 「姫さま!」 「ルイズ! 無事でしたか!」 アンリエッタを見つけて、駆けつけたルイズは、弾んだ声で彼女に尋ねる。 「姫さま、ご覧になりましたか? 大勝利です! それだけじゃない。トリステインの騎士が、 怪獣を討ち取りました!」 「ええ、ええ。よく見ていましたとも」 二人も、大勢の人間と同じように、人間が怪獣から勝利をもぎ取ったことに歓喜で打ち震えていた。 アンリエッタは、小さくつぶやく。 「わたくしたちは、無力ではなかった。グレン、見ていてくれましたか……」 そしてルイズは、アンリエッタたちを先ほど助けてもらったアニエスのところへ案内し出した。 ハルケギニアの人間が、長きに亘る苦難の果てに、ウルトラマンゼロたちと肩を並べて戦い、 大怪獣と侵略者に勝利したこの戦いは後に、『トリスタニアの奇跡』と称されることになるのである。 その奇跡に街中が湧く中で、アニエスは傷ついた身体を抱えていた。彼女だけは、他の人間と異なり、 その目に憎悪をたぎらせたままであった。 「……ここで、死んでたまるか。まだ、実行犯が残っている……!」 ダングルテール虐殺の計画者、リッシュモンは討った。しかし、虐殺の実行犯がまだどこかに 生きているはずだ。それを抹殺して、ようやく復讐は完遂される。 アニエスは暗い情熱の力により、その身体を支えていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9126.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その三「春奈と光の国」 宇宙犬ラビドッグ 登場 M78星雲。それがどんな星なのか、今更説明するまでもないだろう。そこは我らがウルトラマンゼロの故郷。 M78ワールドの全てのウルトラ戦士の家。地球人の誰もが憧れる、光の国が存在するウルトラマンの星だ。 その星に今、予定外の地球人の来客が滞在している。彼女の名前は、高凪春奈。ヤプール人と 宇宙人連合の陰謀により別宇宙のハルケギニアにさらわれ、紆余曲折あった末にゼロの手で このM78ワールドに送り帰されてきて、そしてウルトラ戦士たちに保護されて光の国に招待されたのだ。 光の国、宇宙警備隊本部。その名の通り、宇宙の平和を守るウルトラ戦士たちが所属する組織、 宇宙警備隊の本部となる施設であり、光の国の上空を常に浮遊している。全てが透き通ったクリスタルで 出来ているような、非常に美しく幻想的な建物だが、その特徴は光の国の建造物としては当たり前の ものである。光の国の街並みはそんな建物で出来上がっているのだ。 「うわぁ、すごい……。話に聞いてた以上に、美しい世界なんだ、光の国……」 ウルトラ族にはもちろん見慣れた光景だが、本部の一室の窓から見渡しているところの 春奈にとってその美しさは、心の底から感動できるものであった。彼女もまた、ほとんどの 地球人と同様に光の国に憧憬を抱いていた一人なので、感動もひとしおである。 彼女は宇宙人連合に利用され、ゼロを闇討ちするための駒とされたのだが、そのことが逆に幸運となって、 一時的に宇宙空間でも生存できる肉体となった。そのため侵略者への対処のためにハルケギニアを離れることが 出来ないゼロでもM78ワールドに送り帰すことが出来るようになり、つい先ほど故郷の宇宙空間に 放り出されたところだった。いくら生存できるとはいえ、どこまでも暗い宇宙に一人漂っている間は 不安な気持ちになったが、ゼロの出したウルトラサインによってすぐに宇宙警備隊員が駆けつけてくれ、 こうして光の国へ運んでくれたのである。 「まさか、ただの高校生だった私が、あの光の国に来ることになるなんて……夢にも思わなかったな……」 大宇宙に進出した地球の技術水準でも造れそうにない世界の光景をぼんやりとながめながら 一人ごちる春奈。と、その時、彼女の足元に真っ白い毛で覆われた小型犬が纏わりついてきた。 「ワンワンッ!」 「きゃッ!? な、何? こんなところに、犬?」 「驚かせちゃったかな。その子はラビドッグ。タロウ兄さんのペットだよ」 目を丸くしている春奈の元に、凛々しいながらもどこか可愛らしさを残した顔立ちの青年が歩いてきた。 それにより、ラビドッグという宇宙犬は春奈から離れて、青年の元まで駆け寄る。 「あなたは……?」 春奈がラビドッグを抱えた青年に尋ねると、青年はこう答えた。 「僕は高凪春奈ちゃん、君を地球まで送り届ける役目を引き受けた者さ。名前はメビウス。 地球では、ヒビノ・ミライという名前を名乗ってた」 「メビウスって……あのウルトラマンメビウスですか!?」 春奈は目を見張った。ウルトラマンメビウス。地球がまだ怪獣に対抗し切れるほどの力を 持っていなかった時代、通称「怪獣頻出期」に最後に地球を守護したウルトラ戦士だ。 「す、すごい! 歴史の授業で習いました! ここはウルトラの星なんだし、当たり前といえば 当たり前なんだけど……その英雄が目の前にいるなんて! あ、握手してもらってもいいでしょうか!?」 「いいよ。でも、僕が英雄なんて、ちょっと恥ずかしいな。僕は自分にやれるだけのことをやっただけなのに」 「とんでもない! 闇に包まれそうになった地球を救った張本人じゃないですか!」 感激した春奈はメビウス=ミライと握手してもらう。才人にウルトラマンゼロが一体化していると 知った時も驚きだったが、メビウスは小さい頃から名前を聞いていた相手だけに、興奮はそれ以上だった。 「春奈ちゃんは、侵略者たちの悪しき陰謀のために大変な思いをしたみたいだね。でももう大丈夫だよ。 僕が責任を持って、君を護送するから。まぁでも色々あって疲れてるだろうし、今日はこの本部で ゆっくり休んでいって。出発は明日にするよ」 「ありがとうございます」 ミライの気遣いに礼を告げた春奈は、彼としばし談笑する。 「それにしても、サーペント星人が憑依か……懐かしいな。サーペントと戦ったウルトラ戦士は僕なんだよ。 あの時も、地球人がサーペントの支配を打ち破ったんだ。やっぱり、地球人はすごい力を持ってるんだね」 「いえ、そんな。メビウスさんたちの方がずっとすごいじゃないですか。こんなに大きな街を作れるんだし。 私に貸してくれたこの部屋だって、こんなに広い」 「これでもまだ小さい方なんだけどね。まぁ、大きいのは当然のことだよ。だって、40m大が 僕たちの通常サイズなんだから。ちなみに、僕たちの先祖が今の姿になって一番大変だったのは、 巨体のサイズに合わせて建物を作り直すことだったらしいよ」 「ふふッ、面白いお話ですね。ウルトラマンも、そういうことで悩んだりするんだ」 「日常って、どこの世界でもそういうものだよ。あッ、そうそう、念のために言っておくけど、 本部に張ったバリアから外には出ないでね。この星の光は、地球人の身体には強すぎるんだ。 今は星人の力を宿してるとはいえ、影響が全くないとは言い切れないから」 そんな風に話し込んでいると、部屋にまた四人の男性がゾロゾロとやってきた。 「むッ。メビウス、もう高凪さんと話をしていたのか」 「俺たちも混ぜてくれないか。こうして地球人と会話をするのは久しぶりのことだから、ちょっと楽しみなんだ」 「兄さんたち」 全員、ミライと異なり年配の姿をしている。ミライは春奈に、彼らの紹介をする。 「春奈ちゃん、この人たちは左からウルトラマン兄さん、セブン兄さん、エース兄さん、レオ兄さんだよ」 「ご紹介にあずかりました。私がウルトラマン。地球での名前は、ハヤタだ」 「ウルトラセブン。地球ではモロボシ・ダンと名乗ってたよ」 「エース。地球人としての名前は北斗星司さ。よろしく!」 「ウルトラマンレオだ。地球での名前はおゝとりゲンと言う」 四人の男たちが名乗ると、春奈は再び感激する。 「み、みんな地球を守ったウルトラ兄弟じゃないですか! それが、こんなに私に会いに 来てくれるなんて、信じられない!」 「むしろ当然さ。私たちはみんな、地球に強い愛着を持っている。だから、光の国を訪れた 地球人に会いたいと思うのは自然なことだ」 と語るハヤタ。北斗は他の兄弟について言及する。 「ジャック兄さんやタロウたちも会いに来たがったんだが、最近は宇宙中で怪獣の活動が活発になってる。 それを鎮圧するための仕事中なんだよ。実に残念そうだったな」 「本当に、タイミングの悪いことだ。いや、もしかしたら怪獣の活発化も、ゼロたちが向かった ハルケギニアという星に悪しき気配が侵入したことと関係があるのかもしれないな……」 危惧するダンとゲンの顔を、春奈がじっと見つめる。 「そういえば、セブンさんとレオさんって……ゼロさんがお父さんと宇宙空手の師匠って言ってましたけど」 「む。ゼロから私たちの話を聞いてたか」 「はい。親父たちに会ったら、よろしく言っといてくれって出発前に頼まれました」 春奈からの言伝を聞いて、ダンとゲンは顔をほころばせた。 「そうかそうか、ゼロも元気でやっているみたいだな。安心した」 「俺たちは君から直接ゼロの話を聞きたくて、ゾフィー兄さんにお願いして面会を許可してもらったんだよ。 そういう訳だから、もっと詳しい話を教えてくれないかな?」 「あッ、はい! いくらでもお話ししますとも!」 春奈はハルケギニアに連れさらわれてから、この宇宙に帰ってくるまでのことを全て話した。 ハヤタたちは、ゼロが向こうで大活躍していることに喜び、平和が守られていることに安心したが、 同時にいくつかの事項を気に病んだ。 「ゼロは今、平賀才人君という少年と命を共有しているのか。私たち兄弟も経験があることだが…… 地球でない場所でそうなっている例は初めてだ」 「そのために、少年を戦いに巻き込んでしまっているのか。私の息子がすまないことをしている。 どうにかしてやりたいものだが……さすがに命を別の宇宙まで運ぶのは困難なことだからな……」 ハヤタとダンは才人のことを気に掛ける。一方で北斗、ゲンはヤプール人の存在を知って険しい顔をした。 「ヤプールめ……今度は別宇宙の星に魔の手を伸ばしたのか。俺たちが容易に手出し出来ないのを いいことに……。相変わらず卑劣な奴だ!」 「怪獣の活動に対して、侵略者の動向が少なかったのは、ヤプールがその宇宙へ連れ込んでいたからだったか。 真に許せん!」 ミライもヤプールの名を聞いて考え込むと、ハヤタに尋ねた。 「兄さん、僕もそのハルケギニアに向かわせてもらえないでしょうか? 幸い、ハルケギニアでも 僕たちは活動できるようです。ヤプールが相手なら、戦力は少しでも多い方がいいはずです!」 「いや、ヤプールが相手なら、その役目は俺の方が適してる。兄さんたち、是非とも俺を派遣させて下さい!」 ミライと北斗が頼み込むが、ハヤタは却下した。 「いや、それは駄目だ。ゾフィーもそう言うだろう」 「どうしてですか!?」 北斗が聞き返すと、ダンがそれに答えた。 「さっきも言ったが、最近になって宇宙各地で怪獣の被害が増加している。何か、恐ろしいことが 起きる前触れかもしれない。そんな中で、お前たちという戦力を減らす訳にはいかない」 「しかし、いくらゼロでも、ヤプールは危険な相手です! ご存知でしょう!」 ヤプールの怨念の恐ろしさを知るミライや北斗はなおも主張するが、ダンはこう返した。 「私の息子を、ゼロを信じてほしい。あいつと仲間たちの力は、ヤプールの怨念にも屈しないはずだ」 「……セブン兄さんが、そこまで言うなら」 ダンの力強い視線を受け、北斗たちはようやく引き下がった。 「……私たち地球人の知らないところで、そんなことになってたんですね」 話を横から聞いていた春奈が、眉間に皺を寄せてつぶやいた。それを耳に留めたハヤタが 我に返って、彼女に向き直った。 「ああ、心配を掛けてしまったかな? しかし、安心してくれ。宇宙の平和は、私たちウルトラ戦士が 必ず守る。君は気にせず、元通りの生活に戻るといい」 ここですっかり話し込んでいたダンが、手を叩いて兄弟たちに呼びかけた。 「さて、みんな、気は済んだか? あまり長い時間、任務から離れている訳にはいかないし、 何より彼女をあまり疲れさせるのは忍びない。この辺で面会は終わりにして、また任務に 戻るとしようではないか」 「そうだな。それでは高凪さん、私たちはそろそろお暇させてもらうよ」 「今日はとても楽しかったよ! もう会うことはないかもしれないが、俺たちのこと、どうか覚えていてくれよ!」 「君の同級生の件は、宇宙が落ち着いたら我々でどうにか対処しよう。だから彼の帰還は、 ゆっくりと待っていてほしい。すまないが、お願いするよ」 ハヤタ、北斗、ゲンがそれぞれ最後に告げると、四人のウルトラマンたちは部屋から退出していった。 それを見送った春奈がポツリと発する。 「ウルトラマンって、ほんといい人たちばかりなんですね。赤の他人の私たちのことを、 あんなに気に掛けてくれるなんて……」 その春奈のひと言に、ミライは柔らかく微笑みながら告げた。 「赤の他人なんかじゃないよ」 「え?」 「ウルトラマン兄さんが言ったように、僕たちウルトラ兄弟は、地球を第二の故郷だと思ってるし、 様々な敵とともに戦ってきた地球人をとても愛してる。君たちがいつか、僕たちと肩を並べる日が 来ることが、僕たちの共通の願いだ。その地球を担う君たちは、僕たちの弟も同然なんだよ」 ミライの言葉を受けて、春奈は少々顔を赤らめた。 「私たちに、そんな願いを……。私、何だか恥ずかしいです。ウルトラマンは、今も地球のことを 大事に思ってくれてるのに、肝心の私は、自分の人生にあんまり真剣じゃないから……」 「そんなに重く受け止めなくてもらわなくてもいいよ。これは、僕たちの個人的な願望なんだからね。 君たちに強要する訳じゃないんだ」 春奈の緊張をほぐすように笑いかけたミライは、続けてこう語り聞かせた。 「でも、これは覚えててね。僕たちウルトラマンは、普段は目に見えないほど遠くからだけど、 いつでも君たちのことを見守ってる。君たちは、どんな時も一人じゃないんだ。だから、 これからの人生でどんなことが起ころうとも、恐れたり、絶望したりすることはないんだよ。 君たちのために祈ってる人がいるんだということを、どうか忘れないでね」 「……はい……」 ミライの言葉は、とても温かく、心安らぎながらも、同時に活力が湧いてくる、不思議な音色を持っていた。 春奈は静かに心を打たれて、ただただうなずいた。 しばらく呆けていた春奈だが、不意にミライから質問をされ、我に返った。 「ところで春奈ちゃん。今の地球では、そんな変わったアクセサリーが流行ってるのかい?」 「え? 何のことですか?」 自分は特に、目立ったアクセサリーを身につけていたりはしない。何のことを言われているのか 首を傾げていると、ミライは自分の胸元を指し示して、指摘した。 「だって、胸のところ、何か詰め物入れてるでしょ。人に見えないアクセサリーなんて変わってるね」 「!!?」 春奈は目を白黒させると、真っ赤になって胸を抱えた。 「こ、これはアクセサリーじゃありませんッ! っていうか、メビウスさん……何で分かったんですか!?」 「え? いや、だって、違和感があったから……てっきりそういうものなのかと」 「い―――――や――――――――! これは私の、誰にも知られたくない秘密なのに――――――――!」 春奈は羞恥心でいっぱいになって悲鳴を上げた。それでミライは慌てふためく。 「ご、ごめん。僕、地球の女性の人のことって、あんまり詳しくないから……」 「謝られたら、余計に恥ずかしいです! ……って、もしかして、他のウルトラマンの方も 気づいてたんでしょうか!?」 「まぁ、僕に分かるんだから、そうだと思うよ。多分、ゼロも……」 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!! 次から、どんな顔して 平賀くんに会えばいいのぉぉぉ――――――――――――――――――――!?」 衝撃の事実を知ってしまい、宇宙警備隊本部の一室に、春奈の甲高い悲鳴が響き渡った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9036.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十二話「ウルトラマンゼロ朝焼けに死す」 凶悪宇宙人ザラブ星人 分身宇宙人ガッツ星人 極悪宇宙人テンペラー星人 暗殺宇宙人ナックル星人 登場 「ザ、ザラブセイ人!?」 「こいつが、宇宙人!」 ジェームズ一世に化けていたザラブ星人が正体を現すと、ウェールズとルイズは再度驚愕した。 二人とも、名前だけは耳に挟んでいたが本物の宇宙人を初めて目にして、言葉を失う。 しかしウェールズが一番に立ち直り、ザラブ星人に詰問する。 「貴様! 本物の父上はどうしたというのだ!」 するとザラブ星人は、丸で何でもないことのように答えた。 『万が一、本物と出くわしたら面倒なことになるのでな。昨晩の内に始末して入れ替わったわ。 何、構わんだろう? どうせ今日の内に死ぬつもりだったのだから』 その台詞に、ルイズは言葉をなくした。 それ以上に、ウェールズは怒りで震え、ザラブ星人に杖を向けた。 「許さん貴様ぁぁぁッ! 我が魔法で塵に帰してッ……!」 しかし言い終わらない内に、ワルドの『エア・ニードル』で胸を貫かれた。怒りで気がザラブ星人に それた隙に、持ち直したのだった。 ウェールズの口から、血の塊が零れ、斃れた。 「殿下ぁー!!」 ルイズが絶叫する中、ワルドは残った右腕で杖を振り、宙に浮いた。 「何だか分からぬが、巻き添えを受けない内に退散させてもらう。目的の一つは確実に果たせただけでよしとしよう。 どのみちこの状況では、どちらとももう助かるまい。使い魔ともども灰になるがいい!」 捨て台詞を残したワルドが、壁に開いた穴から逃げていった。その後で、ザラブ星人がルイズに目を向ける。 『ついでだ。お前も始末するとしようか』 「ど、ど、どうして宇宙人がここに……何でサイトを……」 ルイズが腰を抜かしておびえながら問いかけると、ザラブ星人はルイズを見下しながら答えた。 『それは当然、あの小僧がウルトラマンゼロだからだ! 奴の存在は我々の侵略計画の大きな障害となる。 だがまともに戦ってはこちらの勝ち目が薄いほど、ウルトラマンゼロは強い。だから変身する前の状態の時に 致命傷を与えるために、貴様らがこの大陸に来てからずっと機会を窺っていたのだ! そしてたった今、 この国の人間の姿で油断を誘い、近づいて不意打ちを仕掛けた。ククク、手間を掛けた甲斐があったというものだ』 「そのためだけに陛下を……許さない! 卑怯者!」 ルイズがどうにか気力を振り絞って杖を向け、爆発を起こすが、ザラブ星人に軽くかわされてしまった。 『下等生物に何と言われようと、何も感じんなぁ! さて、お前のような小娘と遊んでる暇もないのだ。 とっとと、王とそこの王子と同じようになってもらおうか』 ザラブ星人が微塵の情けもなく、ルイズに向かっていく。 「やめろバケモンが! 娘っ子にまで手を出すんじゃねえ――ぶッ!」 途中、才人の手から離れて床に横たわったデルフリンガーが怒鳴ったが、ザラブ星人に蹴飛ばされた。 そしてザラブ星人は、ルイズに腕を向ける。ルイズは恐怖が限界に達して、ギュッと目をつぶった。 だがその瞬間に、ザラブ星人の肩にウルトラゼロアイの光線が命中した。それによりルイズへの攻撃は阻止される。 『ぬうッ!? まだ動けたのか……人間のくせにしぶとい奴だ』 ザラブ星人が振り返ると、ウルトラゼロアイを手にした才人が、今にも死にそうな顔になりながらも立ち上がっていた。 「許さねえぞ、ザラブ星人……テメェのせいで、皇太子まで……デュワッ!」 怒り心頭した才人がウルトラゼロアイを装着し、等身大のウルトラマンゼロに変身した。 『俺が目的なら、相手してやるよ! このウルトラマンゼロがなぁッ!』 ゼロは速攻でエメリウムスラッシュを撃つが、ザラブ星人によけられる。ゼロはすぐに追撃しようとするが、 『ぐッ!?』 不意に胸を抑えてふらついた。 「ゼロ!?」 『フハハハハハ! 変身する前の状態のダメージは、そのまま貴様に引き継がれる。私の光線は効いただろう!』 ゼロの苦しむ様を見て、ザラブ星人が哄笑を上げた。 『今の貴様なら、私一人で倒せる。他の連中にわざわざ手柄を分けてやる必要もない! ウルトラマンゼロを仕留めるのはこのザラブ星人だ――がはぁッ!?』 言い終わらない内にザラブ星人は、高速で接近してきたゼロに顔面を殴り飛ばされた。 『何か言ったかテメェ? よく聞こえなかったな』 『な、何故そんなに早く動ける!? それだけのダメージを受けて――ごふぅッ!』 ゼロがまた拳を入れ、どんどんと激しく殴りつけていく。 『この国の王様やぁ! ウェールズ! ルイズが受けた痛みと比べれば! こんなもん何ともねぇんだよ馬鹿野郎がぁッ!』 『がッ! ぐふッ! はがぁッ!』 ゼロと、才人の叫びをぶつけられながら、ラッシュを食らい続けるザラブ星人は壁に叩きつけられた。 『うおおおおおおお―――――――――ッ!』 そしてゼロはゼロスラッガーを両手に持ち、光る軌跡が残るほどの速さの太刀筋で振るう技、 ゼロスラッガーアタックでザラブ星人の全身を斬りつけた。 『うぎゃあああ――――――!』 それにより、ザラブ星人は瞬時に爆発して絶命した。 「や……やった……」 ルイズが放心しながらつぶやいた直後に、彼女の横の地面が盛り上がり、ぼこっと床石が割れ、 茶色の生き物が顔を出した。 「えッ? な、何よ一体……きゃああッ!?」 その茶色の生き物は、モグモグと嬉しそうにルイズの体をまさぐってきた。その行動で、 ルイズは正体を理解する。 「あなた……巨大モグラのヴェルダンデ!? ギーシュの使い魔の!」 「こら! ヴェルダンデ! どこまでお前は穴を掘る気なんだね! いいけど! って……」 直後にヴェルダンデの掘った穴から、ギーシュが顔を出した。そして状況を確認して、ギョッと目を見開く。 「ウルトラマンゼロ!? どうしてこんなところに!? しかも何か小さいし!」 『うるせぇッ! 小さいって言うんじゃねぇ!』 小さいという言葉に過敏に反応するゼロ。まぁそれは置いておいて、ルイズがギーシュに問いかける。 「ギーシュ、なんであなたがここにいるのよ!」 「いやなに。『土くれ』のフーケとの一戦に勝利した僕たちは、寝る間も惜しんできみたちのあとを追いかけたのだ。 なにせこの任務には、姫殿下の名誉がかかっているからね」 「ここは雲の上よ! どうやって!」 それには、ギーシュの隣から出てきたキュルケが、顔についた土をハンケチでぬぐいながら答えた。 「タバサのシルフィードよ」 「キュルケ!」 「アルビオンについたはいいが、何せ勝手がわからぬ異国だからね。でも、そのヴェルダンデが、 いきなり穴を掘り始めた。後をくっついていったら、ここに出た」 ヴェルダンデは、フガフガとルイズの指に光る『水のルビー』に鼻を押しつけている。 「なるほど。水のルビーの匂いを追いかけて、ここまで穴を掘ったのか。僕の可愛いヴェルダンデは、 なにせ、とびっきりの宝石が大好きだからね。ラ・ロシェールまで、穴を掘ってやってきたんだよ、彼は」 「それはいいから、何とかしてちょうだいよ!」 ヴェルダンデに迫られるルイズは、その鼻を押しのけた。そうしていると、キュルケが状況の説明を求める。 「それより、これは一体どうなってるの? ダーリンがいないで、何でウルトラマンゼロがここに?」 「そ、それよ! たった今大変なことが起きて……」 我に返ったルイズが説明を始めようとした、その時、 『ザラブ星人、愚かな奴だ。欲をかいて功を焦るとは』 「!?」 突然、この場にいる誰のものでもない声が礼拝堂に鳴り響いた。 『しかし、こちらとしては都合がいい。競争相手が減ることは、侵略した領土の取り分が増えるということだからな』 皆が声のした方に振り返ると、そこにはいつの間にか、オウムのような丸い頭をした怪人が立っていた。 「な、何!? あの変な動物は!」 『変な動物ではない!』 キュルケが思わず叫ぶと、怪人は激怒して訂正した。 『私は如何なる戦いにも負けたことのない、無敵のガッツ星人だ!』 「ガッツセイ人!? また、宇宙人が……!」 ルイズが驚いて叫ぶが、ガッツ星人は彼女やギーシュ、キュルケらの存在をまるっきり無視して、 ウルトラマンゼロに向き直る。 『ウルトラマンゼロ、我々の挑戦はまだ終わりではない。お前を倒すために、私を含めて 四つの種族が協同して作戦を練り上げたのだ。ククク、この星の守護者たるお前が倒れれば、 ハルケギニア人はたちまち降服することだろう。我々が労せずにこの星を手に入れるために 役立ってもらうぞ』 『お前らのような卑怯者が、俺を倒すだと……? 冗談も休み休み言いやがれッ!』 怒りを覚えたゼロがゼロスラッガーを飛ばすが、その刃はガッツ星人の身体をすり抜けた。 『何!?』 そして次の瞬間にはガッツ星人の姿が掻き消え、別の場所に出現した。それにゼロもルイズたちも目を見張る。 『分身か! そういえば親父が言ってたな。せこい真似しやがるぜ……!』 『クハハハ! 無駄だ。貴様の能力は既に、怪獣二体を使って分析済みだ。貴様の攻撃は、 このガッツ星人には当たらん』 『なるほどな……何か妙だと思ったら、あの怪獣たちはお前らの差し金だったのか……。 怪獣にだって命があるんだ! 命を利用して、テメェらは何様のつもりだッ!』 ゼロは、敵としてぶつかった怪獣たちのために怒った。だがガッツ星人はそれを冷笑する。 『命だと? 下らん。所詮怪獣など、戦いの道具だ。用が済めば、ゴミも同然よ!』 『! 命をもてあそびやがって……そんな奴らを、俺は許さねぇぞッ!』 冷酷なガッツ星人に啖呵を切るゼロなのだが、それとは裏腹にカラータイマーが点滅をし出す。 『うッ……!』 『許さないだと? 自分の状態と相談してから物を言え。ザラブ星人の攻撃は効いたようだな。 その大きさでも、お前のエネルギーは既に切れかかっている。手負いでエネルギー切れ寸前の ウルトラ戦士など、怖くも何ともないなぁッ!』 ガッツ星人がゼロに向けて足を踏み出す。その時、キュルケとギーシュが杖を抜いた。 「援護するわ、ゼロ! ゼロの攻撃は見切れても、私たちのはどうかしら!?」 「よく分からないが、そいつは敵なのだろう! いつも君にはハルケギニアを助けてもらってるんだから、 今度は僕たちが君を助けよう!」 「わ、わたしも!」 キュルケの『ファイアー・ボール』とギーシュのワルキューレ、そしてルイズの爆発が飛んでいく。 しかし、ガッツ星人は残像が残るほどの超スピードで移動して魔法をかわし切った。 「は、速い!」 「何てスピード!? ありえない……」 『貴様らハルケギニア人など、相手にならん』 ガッツ星人はいつの間にか、キュルケたちの背後に立っていた。三人の顔から一気に血の気が失せる。 『伏せろぉッ!』 ゼロが声を上げて、ルイズたちが咄嗟にしゃがむと、エメリウムスラッシュが彼女たちの 頭上を越えて地面を薙ぎ払った。だが肝心のガッツ星人は、また高速移動をして逃げる。 『クックッ、焦るな焦るな。ここでお前と戦うつもりはない』 『何ぃ?』 ガッツ星人がうそぶくと、ゼロが怪訝な顔をした。 『言ったはずだ、お前が倒れることでハルケギニア人を降服させると。そのためには、もっと大勢が見ている前で 勝負をする必要がある。そら、私の仲間が表に現れるぞぉ』 その言葉の直後に、礼拝堂を突然の大きな揺れが襲った。同時に、外から巨大な何かが降り立った轟音も鳴り響いた。 『ウルトラマンゼロ! 出てこぉぉぉぉぉぉいッ!』 朝焼けに照らされるニューカッスル城の前に突如現れた青い肌で金色のマントのようなものを羽織った、 大柄な巨大宇宙人に、城を包囲している貴族派の軍隊と、城を警護している王党派の兵たちの両方が驚愕した。 その場にいる誰もが、天にそびえ立つような異形の巨人を目にしたことなど、生涯に一度としてなかった。 この宇宙人の正体は、かつて同族がウルトラの国の爆破を目論んだり、伝説のウルトラ六兄弟を たった一人で窮地に追い込んだりとウルトラ一族を大いに苦しめた恐るべき極悪宇宙人、テンペラー星人である。 「な、何だ!? あの巨大な怪物は!?」 「あれが噂の、カイジュウという生き物か!?」 『出て来なければ、ここにいる人間どもを全員灰にしてしまうぞぉッ!』 テンペラー星人は人間たちの動揺を完全に無視すると、彼らに向けていきなり、両手のハサミから 灼熱の火炎を放ち始めた! 「ぎゃああああああッ!?」 「うッ、うわあああああああああ! 退却! 退却だあああッ!」 「助けてくれええええええ――――――――!」 火炎は貴族派も王党派も関係なく襲い掛かり、兵士数十人を纏めて火達磨にする。一気に恐慌状態となった 貴族派は隊列をそろえるどころではなく、てんでバラバラになって退却していき、逃げるところのない王党派は 水のメイジを中心に必死に消火活動に当たる。 『ぐははははは! 恨むならウルトラマンゼロを恨めぇッ!』 無関係な人を次々に焼き殺しながら、テンペラー星人は傲然と言い放った。 『な、何てことを……!』 その様子を超感覚で捉えたゼロが絶句した。そこにガッツ星人が、嘲笑混じりに宣告する。 『私も外で待っているぞ。一人でも助けたいんだったら、早く表に出ていくことだな』 そう言い残して消えるガッツ星人。 『くそッ! 許さねぇぞ、侵略者ども……!』 ゼロはすぐに礼拝堂を飛び出していこうとするが、そこをルイズが思わず呼び止めた。 「ま、待って! そんな状態で戦うつもりなの!?」 『……』 ルイズたちに振り返ったゼロは、短く告げた。 『お前らは早く逃げろ! 俺のことは……心配するなッ!』 そして青く輝く光になると、ステンドグラスを抜けて礼拝堂の外へと飛んでいった。 「ゼロ……」 キュルケとギーシュが急展開についていけずに言葉をなくしている中、ルイズはゼロの身の心配を ぬぐうことが出来ずに、ひと言つぶやいた。 「デュワッ!」 礼拝堂を抜けた光は、49メイルの大きさまで巨大化したゼロの形に戻って、テンペラー星人の目の前に着地した。 するとテンペラー星人は、人間たちへの放火をやめてゼロに向き直る。 『出てきたな、ウルトラマンゼロ! この浮遊大陸が貴様の墓場となるのだぁ!』 『ゴチャゴチャうるせぇ! テメェら絶対……この俺がぶっ倒してやる!』 啖呵を切ったゼロが速攻でワイドゼロショットを発射する。しかしテンペラー星人はそれを、 正面から平然と受け切った。 『ぐははははは! 効かんなぁ!』 『何ッ! くそぉ……!』 先ほどからカラータイマーが鳴りっぱなしで、エネルギーが残り少ないというのに、 テンペラー星人に必殺技が通用しない。この事実に、ゼロはたじろいだ。 『今度はこちらの番だ! 食らえ! ウルトラ兄弟必殺光線!』 テンペラー星人のハサミから放たれた光線が、ゼロの身体を焼く! 『ぐあああああああッ!』 『ウワハハハハハ! この光線はウルトラ一族の貴様には、地獄の苦しみだろう!』 ウルトラ兄弟必殺光線は、テンペラー星人がウルトラ戦士を打倒するために作り出した切り札。 ウルトラ一族の肉体を破壊する凶悪な効果があり、ウルトラ六兄弟もこれに苦しめられた。 ゼロもまた、この光線で大ダメージを受ける。 『ぐぅぅ……はぁッ!』 しかしそこはゼロ、やられっぱなしではない。横に転がって光線から逃れると、素早く ゼロスラッガーを飛ばしてテンペラー星人のハサミをはね飛ばした。 『ぬぐッ!? やりおるわ!』 『そんなもんで、この俺を倒せると思うなぁッ!』 ゼロが吼え、ウルトラ兄弟必殺光線を恐れずに向かっていこうとする。 だが足を踏み出したその時に、背後から破壊光線を浴びて止められた。 『うぐぁッ!?』 『クックックッ。私もいるのを忘れてもらっては困るな』 背後から攻撃したのは、ゼロと同様に巨大化したガッツ星人だった。ゼロはテンペラー星人と ガッツ星人に挟み撃ちされる形となる。 『ガッツ星人! 手柄を横取りする気か!』 テンペラー星人が責めると、ガッツ星人は飄々とした様子で返す。 『ふん。こういうことは自由競争、早いもの勝ちだッ!』 そしてゼロは、ガッツ星人の目から放たれる拘束光線と、テンペラー星人のハサミからの ビームウィップを同時に食らうことになる。 『うぁッ! ぐッ! ぐあああああああッ!』 縛られて身動きを封じられてから、ビームウィップで繰り返し殴られ、ゼロは耐え切れずに絶叫を上げた。 しかし地獄は、まだ終わりではなかった。 「逃げろおおおお! 化け物どもに踏み潰されるうううッ!」 「誰かお助けをぉぉぉぉぉぉぉ!」 貴族派の兵士たちは、大暴れする宇宙人たちにすっかり恐れをなして、我先にと逃げ出している。 「おい待て! 勝手に持ち場を離れるな! 敵前逃亡になるぞ! 戻ってこんか、平民どもがッ!」 しかし、この状況下でも指揮官役のメイジが、戦場から兵がいなくなるのを良しとせずに止めようとしている。 すると、彼に声を掛ける者が現れた。 「いや。今きみのすべきことは、全軍を後退させて安全を確保することだよ」 と言ったのは、鷲鼻に碧眼の聖職者風の格好の男。球帽からはカールした金髪が覗いている。 この男の顔を目にしたメイジが、ギョッと驚いた。 「クロムウェル閣下! どうしてこのような前線へ?」 聖職者風の男、貴族派『レコン・キスタ』総司令官のオリヴァー・クロムウェルは、当然といったように答えた。 「こんな大事態になって、余が何もしない訳にはいかなかろう。さぁ、状況は把握してる。 早く兵の諸君を誘導して下がらせるといい。もちろんきみもだ」 「し、しかし……敵の前からいなくなるなどと……」 メイジが逡巡していると、クロムウェルは彼を諭した。 「こんなことになって、敵だの戦争だの言っている場合ではない。余にとって死者はともだちだが、 さすがに炎に焼かれたり踏み潰されたりして欠片も残らなくなっては、ともだちとは呼べなくなる。 さぁ、状況は虚無の担い手である余自身が監視するから、きみは皆の命を大切にするといい」 「か、かしこまりました。閣下のお気遣いにはまことに痛み入ります。どうかお気をつけを!」 説得されて、メイジは直ちに全軍の避難誘導を行いに下がっていった。それを見送ったクロムウェルは、小さくつぶやく。 「……そうとも。早くいなくなるといい。たとえ虫けらでも、万が一歩く邪魔になられては迷惑なのでね」 そう言うと、誰の目も周りになくなったことを確認してから、両腕を胸の前で交差する。 するとクロムウェルの身体が瞬く間に膨れ上がっていき、テンペラー星人らと同等の身長の、 全身に赤い球体のついた細身の宇宙人へと変貌した。同族がウルトラマンジャックを 肉体的にも精神的にも極限まで苦しめた、宇宙切っての卑怯者と名高い、ナックル星人である。 何と、『レコン・キスタ』の総司令クロムウェルは、ナックル星人に取って代わられていたのだ。 だが何の目的で? それを考えている暇は、今はない。ナックル星人は腕をブラブラ揺らしながら、 必死に二大宇宙人の攻撃から逃れたゼロへと近づいていく。 『なッ!? テメェはナックル星人……!』 接近に気づいたゼロの顎を、ナックル星人が殴り上げる。 『ぐあああああああッ!』 殴り飛ばされたゼロは、その先でビームウィップにはね飛ばされ、更にガッツ星人に蹴り飛ばされる。 エネルギーが残り少ない状態で、二人相手でも防戦一方だったのに、三人に増えたことで、 最早身を守ることも叶わなくなる。 『くそぉッ! 太陽エネルギーが足りねぇ……こんな奴らに負ける訳にはいかねぇってのに……!』 ウルトラマンゼロはエネルギーの補充が必要だ。だが、今のゼロには、朝陽のエネルギーでは あまりに光線が弱過ぎるのだ。 そしてゼロは、ガッツ星人の腕からの破壊光線、テンペラー星人のウルトラ兄弟必殺光線、 ナックル星人の目から怪光線の集中砲火を受ける。 『うわあああああああああああああああああああああああッ!!』 朝焼けに照らされるニューカッスルにゼロと、中の才人までもの絶叫がこだました。 ルイズはデルフリンガーを抱えて、キュルケとギーシュとともに城の外に出た。その彼女たちは、 ゼロが袋叩きにされてなぶり倒される様子を目にすることとなった。 悪夢の光景だった。それまで、如何なる敵もどんな力を持った怪獣も、圧倒的な能力で 粉砕してきた無敵のウルトラマンゼロ。それが今、三人の宇宙人たちによって完膚なきまでに 叩きのめされているのだ。 「! 卑怯者!」 状況を見るなり、ルイズが叫んだ。ただでさえ弱り切っているゼロを、三人掛かりで 執拗に痛めつける侵略者たちの姿は、到底許容できるものではない。キュルケとギーシュも 激しい憤りを感じるが、だからといって身長二メイルにも満たない彼らに何が出来るのだろうか。 「ゼロ! 今助けるわ!」 しかしルイズは、杖を抜いて前に出ると、ナックル星人へと先端を向けた。 これまで、何の関わりを持たないはずの自分たちを助けるために、はるばる遠くの世界からやってきて 戦ってくれているウルトラマンゼロ。その恩を今返さなければ、いつ返すというのか。 (フーケを追いかけた時、怪獣を爆発させたのはわたしなのよ。あの時と同じ呪文を唱えれば、一人くらい……!) と自分に言い聞かすが、今はあの時と違い『青い石』が手元にないことが一抹の不安となる。 しかしルイズはそれを振り払う。大丈夫、上手く行く。自分に虚無の力が眠っているのならば、 今目覚めないでどうするというのか。必ずゼロを助けるんだ……! 「『爆発』!」 懸命な願いを込めて、あの時口に突いて出たのと同じ呪文を唱えた。 ……しかし、現実はルイズの万感の想いを裏切った。発生したのは、いつもよりも少し規模が大きいという程度の、 とても宇宙人を倒すには至らない爆発。それを脚に受けたナックル星人は、姿勢を崩すだけだった。 「そ、そんな……」 「ルルル、ルイズ! 何をやってるんだい! 怪人がこっちに振り向いたじゃないかぁ!」 「まずいわ! こっちに来るッ!」 ナックル星人はルイズを凝視し、ゼロの包囲から抜けてそちらへ足を向ける。 『や、やめろッ! ルイズたちに手ぇ出すんじゃねぇ……ぐわぁッ!』 止めようとしたゼロは、テンペラー星人に殴られて張り倒された。 『虫けらが悪あがきしやがって! しかしお前は、この星でウルトラマンゼロと一番親しい間柄なのだったな。 ならば貴様を潰せば、ウルトラマンゼロの絶望もより深くなるだろう』 ナックル星人が迫ってきて、キュルケとギーシュは慌てて逃げ出す。だがルイズは、その場に立ち尽くしたまま動かない。 「娘っ子! 何してんだ! 早く逃げろ! このままじゃほんとに踏み潰されちまうぞ!」 デルフリンガーの叫びも、今のルイズの耳には入らない。 ルイズが逃げないのは、以前みたいにプライドからでも、怖気づいて足が動かない訳でもない。 今逃げることは、ゼロを見捨てることに思えてしまうからだ。今にも殺されてしまいそうな彼に 背を向けることは、今から殺されると分かっていても、ルイズには出来なかった。 「どうして……どうして、何も出来ないの? ゼロを、サイトを助けなきゃいけないのに…… 今必要なのに、奇跡を起こせない……わたしには、何も出来ない……」 ルイズの心には、悔しさを通り越して、悲しみしか湧いてこなかった。ワルドとの戦いの時も、今も、 何の力にもなれない。そう思うと、涙が瞳からあふれ出てくる。 指に嵌まる『水のルビー』に目を落とす。ゼロはどんな命にも掛け替えのない価値があると言った。 しかし今はそれが何かの役に立つのだろうか? 自分は、ゼロの戦いに立ち入ることすら出来ない。 人間は、ウルトラマンに守られていないと、所詮強大すぎる侵略者に踏みにじられるしかない存在なのか? 「うっ……ううぅ……うぅ……」 ナックル星人が、巨大な足を振り下ろしてきても、ルイズは泣きじゃくるだけ。やがて涙がひと粒、 偶然『水のルビー』に落ちた。 『泣かないで、お嬢さん』 するといきなり、どこからかルイズを慰める、優しくて爽やかな、全く聞き覚えのない声が聞こえてきた。 「えッ?」 思わず顔を上げて辺りを見回すが、それらしい人影は見当たらない。当然デルフリンガーの出した声でもない。 そうしていたら、突然『水のルビー』がきらびやかに輝き出し、銀色の十字の紋様が浮かび上がってきた! 『ゼロは、私が助けます』 「な、何!? 何なの!?」 「こいつは何事だぁ!?」 依然響く声に、ルイズもデルフリンガーも面食らう。しかしルイズは、十字の紋様に見覚えがあることに気づいた。 そう、見たのはごく最近。夢の中で……。 『はぁッ!』 そして紋様から、巨大な握り拳が突き出てきて、今にもルイズを踏み潰そうとしていた ナックル星人を殴り飛ばした。 『ぐわあああああああああッ!?』 完全に不意打ちをもらったナックル星人は、大きな弧を描いて吹っ飛んでいった。これに テンペラー星人もガッツ星人も驚愕する。 『な、何が起きた!?』 『誰か出てくるぞぉ!?』 そして紋様からは、拳の持ち主が全身を現して、両腕を肩の位置よりも高くまっすぐに伸ばし、 脚をたたんだ独特な姿勢で宙に舞った。しかし頂点の高さに来ると、両腕を下に向け、 手の甲のクリスタルから光刃を何発も飛ばす。 『ぐぎゃああッ!』 『ぬおうッ!?』 光刃はガッツ星人が転倒し、テンペラー星人を後ずさりさせて、痛めつけられていたゼロを救った。 「あ、あの巨人は……!?」 ルイズが、『レビテーション』で彼女を引っ張ろうとしていたキュルケが、ギーシュも、 新しく大地に立った巨人を呆然と見やる。体色はゼロと異なり、緑色と銀色。身体のラインは細く、 巨大だが華奢なイメージを受ける。そして一番目を引く点だが、顔には目鼻などのパーツがなく、 代わりに黄色に輝く十字のクリスタルが張りついている。 一体何者なのか? あの、朝焼けの光の中に立つ影は! 『貴様! 宇宙人連合の者ではないな! 何者だッ!』 テンペラー星人が問い詰めると、新しい巨人は、堂々と名乗った。 『ウルティメイトフォースゼロのメンバー、ミラーナイト。知らなかったかい?』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/979.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「待て」 その言葉に、食堂が静まり返る―…と言うことはなく、 騒がしいままではあったが、その声は届いたようだった。 「……何だね君は」 ギーシュは顔を歪め、不機嫌な表情――顔が腫れているので、 口調からの推測だったが――と、不機嫌な口調で返した。 それに対しても平静を保ち、ブルーは言う。 「誰でも良いだろう」 「……そうか、君はたしか『ゼロ』のルイズが呼び出した平民だったな? 平民が僕に何のようだ」 「お前が悪い」 いや、実に簡潔な発言だった。 解りやすく、また同時に間違っていなかったため、 周囲の者達もその言葉に乗り、ギーシュを笑い始めた。 「そうだギーシュ!お前が悪い!」 「二股をかけてたのはお前だからな!」 「恋人が居るだけで許せんのに二股をかけるとはどういう事だギーシュ!?」 一人だけ暗い感情を隠してないものが居たような気もするが。 平手打ちを喰らい、華麗な裏拳を決められ、 周囲から笑われたギーシュは、瓶を拾っただけのメイドより、 自分が笑われる原因となったこの生意気な平民に怒りの矛先を向けることにした。 「君は貴族に対する礼儀を知らないようだな?」 「知った事じゃないな」 ブルーがそう返すと、 ギーシュは芝居がかった仕草で続ける。 こういうときでさえギーシュは格好を付けることを忘れない。 それは賞賛に値することだとは思える。 「フン、ならばこの僕が君に礼儀を教えてあげよう。 ヴェストリの広場に来たまえ!そこで平民と貴族の差を示してやる」 「別に構わん」 そう言うと出口へと歩き出す。 ギーシュの友人達がその後をついて行く。 震えていたシエスタが、暫く経ってから言う。 「あ、あなた……殺されちゃうわ。平民が貴族に逆らったら……」 「大丈夫だ」 そう言ったものの、シエスタは青白い顔をしながら走り去ってしまった。 それと入れ違いになるように、ルイズが近寄ってくる。 「ブルー!何してんのよ!?」 「……どうもヴェストリの広場とやらに行かなければいけないみたいだが」 相変わらず平静を保つブルーとは対照的に、 ルイズは激昂しているようだった。 「そうじゃなくて!何で決闘の約束なんてしてるのよ~!」 「決闘の約束だったのか?……まぁ、問題はないな」 そこで初めて決闘の約束をしたことに気付いたらしい。 その様子を見て少し呆れながらもルイズは続ける。 「あのね!……ちょっとこっち来なさい!」 途中で少し逡巡しながらも、ルイズはブルーの手をとって食堂から連れ出した。 間違いなく人の目が無い自分の部屋まで来てから、 ルイズは話し始める。 「……まぁ、この際だから決闘の約束の事には何にも言わないわ。 だけど、どうやってギーシュと戦うつもり!?あれでもメイジよ!」 「術を使えば――」 「ほいほい使うなって今朝方言ったでしょ!」 「……そうだったな」 「……どうするのよ」 二人とも黙り込む。 結構長い間沈黙を保っていたが、そのうちルイズが言う。 「今なら謝れば、許して貰えるかも」 「何で謝るんだ?」 「……それはそうだけど、謝らないと許してはくれないわよ」 その言葉を受けて、考え込むブルー。 またしばらくの時間が過ぎる。 が、ブルーは突然何かを閃く。 「要するに術を使ってないように見せれば良いんだな?」 「……え?そんなこと出来るの?」 「やり辛いことは確かだが、出来る筈だ」 ブルーは自信というよりは確信を持った口調で言い放った。 「諸君!決闘だ!」 ギーシュが両手を広げて叫ぶと、周囲から歓声が帰ってくる。 尚、顔はすでに治療済みである。 打撲ぐらいなら案外簡単に直せるのだろう。 「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」 歓声に答えて、薔薇の造花を振ったり、 手を振り返しているギーシュに比べ、 ブルーは非常に落ち着いていた。 一通り歓声に答え終わったギーシュがブルーの方に向き直ると、 周りの観客にも聞こえるように語り始めた。 「まずは逃げずに来たことを褒めてやろうじゃないか、平民」 「逃げる必要もないな」 「……ふん、そんな口を利けるのも今の内だ!始めるぞ!」 ギーシュが薔薇の造花を振ると、 薔薇の花びらが宙に舞い、一体の女戦士の形をした銅像となった。 それがブルーの前に跪く。 「僕はメイジだ、だから当然魔法を使って戦う。 まさか文句は無いね?」 その言葉に応えるように、跪くように座っていたその銅像が立ち上がる。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。 僕が青銅のゴーレム、『ワルキューレ』が君の相手をしよう」 それに対し、ブルーは右手を前に突き出し、言う。 「そうか、なら俺は――」 ~~~~ 「良いかルイズ。 使うのはたった二つの術だ。『剣』と『金貨』」 「……何よそれ?」 「見れば解る」 ~~~~ 「俺は手品師だ」 と言って、何も持っていなかった右手に『金貨』を現す。 その言葉と、その『金貨』を見て、ギーシュは思わず言ってしまう。 「……は?」 「だから手品を使って戦う。問題はないな?」 そして、今度は『金貨』を消してみせる。 周囲が黙り込む。 そして、次の瞬間には笑い出す。 「ふ……はは、あっはっは!」 「おい聞いたか!手品でメイジに挑むらしいぜあの平民は」 「こいつは笑えるな!」 ルイズと、後二人……いや、四人だけが冷静に見つめていた。 ギーシュはと言うと、馬鹿にされたと思ったらしい。 「ふざけるのもそこまでだ!」 と言い、ワルキューレをけしかける。 それに対し、ブルーは両手を服の内側にしまい込む。 次の瞬間、笑いが一気に止まる。 手品を使って戦うといった平民は、懐からアホみたいな量のナイフを取り出した。 「このナイフの束からどうやって逃れる?」 それにしてもこのブルーノリノリである。 ともかく、ブルーはその『剣』を全てギーシュに向かって投げつける振りをする。 実際は投げている振りをしているだけで、『剣』の力で飛ばしているのだが。 自分に向かってくるナイフを見て、ギーシュは叫ぶ。 「ワ、ワルキューレ!」 青銅のゴーレムが重そうな外見にそぐわぬほど俊敏な動きをみせ、 ナイフを身体で受け止める。 それはブルーが『剣』を投げるのを止めるまで続いた。 ギーシュは冷や汗をかきながらも、続けた。 「は、はは……少しは焦ったが、所詮は僕のワルキューレの敵ではないな」 そして、再び薔薇を振り、6体のワルキューレを作り出す。 これで既に作られて居たワルキューレを含め、7体となった。 「……だが、剣を使うとは、どうも本気のようだね! なら僕も本気で相手をしてあげようじゃないか! 七体全てのワルキューレを出そう!」 6体のワルキューレが、ブルーを囲むように近づいてくる。 一体はギーシュの近くに居た。 ナイフによる飛び道具を警戒しているのだろう。 ブルーも流石に焦り始める。 『剣』はギーシュに当たれば間違いなく致命傷を与えるが、 金属で出来たこのワルキューレとか言うゴーレムに対しては効果が薄い。 それが七体。ギーシュへの直接攻撃も警戒されている。 絶体絶命という奴であった。 (他の術を使えば――) が、辺りを見回してみる。 ワルキューレを全員倒せるような術では、周囲にいる生徒達にすら死者を出すだろう。 「アカデミー」とやらの事を抜きでも、それは出来そうにない。 一体一体倒していったとしても、途中で術力が切れそうである。 ワルキューレを一撃で倒せるような術では、術力の消耗が大きい。 青銅の拳に殴られ、吹き飛ばされる。 「ぐっ……」 倒れていると、近い位置にいたワルキューレが追撃をかけてきた。 ゴーレムの足が、ブルーの左腕の骨を踏み砕いた。 「……ッ!」 激痛に耐えかねて転がるが、結果的にそれで距離が取れたようだ。 だが、状況が好転したわけではない。 ギーシュは勝利者の余裕をたっぷりと含ませて言ってくる。 「ふん、不遜な口をきいていた割には大したことはなかったね。 もう終わらせるとしよう!」 ワルキューレ達が、一斉にブルーへと殺到した。 「オールド・オスマン」 扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてくる。 「なんじゃ?」 「ヴェストリの広場で、決闘が行われているようです。 大騒ぎになっていますが、生徒達に邪魔されて止めることが出来ません」 それを聞いて、オスマンは呆れと嘆きを表へ出した。 「全く、あの馬鹿共が。 暇があるならもっと有意義なことをしろってもんじゃ。 で、誰が暴れてるんだね?」 「一人はギーシュ・ド・グラモンです」 オスマンは記憶の糸をたどり、顔と名前を一致させる。 「あのグラモンの所の馬鹿息子か。 どうせ女がらみのトラブルじゃろ。で、相手は誰じゃ?」 「それが……メイジではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔のようなのです」 オスマンは、隣にいたコルベールの方を向いた。 コルベールもまた、こっちを見返していた。 思うところは同じだったらしい。 外からの声が続けてくる。 「決闘を止めるために、『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが……」 その声に対し、オスマンは即座に返した。 「アホウ。子供のケンカ如きで秘宝を使ってどうするんじゃ。 放っておきなさい」 「わかりました」 ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。 オスマンは再びコルベールと顔を見合わせると、杖を振った。 壁に掛けられた鏡に、広場の様子が映し出される。 ルイズは不安だった。 不安は、自らの使い魔が死にかけていると言うことだった。 どう考えてもそれが正しい。 しかも、何故か術を使おうとしない。 死にかけてまで、術を使わない理由にはならない。 自らの初めての成功の証が、消えてしまうことがこの上なく恐ろしかったのだ。 なので、目を閉じていた。 が、突如走った閃光が、閉じていた彼女の目を開かせる。 そこには、光り輝く剣を片手で構える使い魔の姿があった。 ブルーはある一つのことを閃いた。 ここに来てからというもの、やたらと閃いているような気がするが、 それは今はどうでも良い。丁度良い術があったのだ。 大規模ではなく他人を巻き込まず、 ワルキューレ達を一撃で倒せる訳ではないが、 防御も兼ね備えた術。 更に良いことに、術を使っているとは思われづらい。 左手は折れているようだったが、右手は動かせる。 問題はない。 フラッシュボムを上に投げる。 ここに来たときに大したものは持っていなかったが、 これはあった。 「《光の――」 詠唱を始めると同時に、閃光が走る。 その閃光を目を閉じたブルーは見る事はなかったが、 周囲の観客や、ギーシュの目を眩ますことは出来たようだ。 「―剣》!」 振り上げた右手に、《光の剣》を作り出す。 閃光によって、彼らは目を閉じた。 が、暫くして閃光は収まったことを知ると、彼らは目を開けた。 ボロボロにやられていた平民が、また剣を持っていた。 どうやらまだやるつもりらしい。 同じように閃光から立ち直ったギーシュが、芝居がかった口調で言う。 「……ふふ、褒めてあげよう。ここまでメイジに刃向かうとは、むしろ賞賛に値するね。 だが、もうろくに動けないだろう」 そして、再びワルキューレ達を操り始める。 ワルキューレ達が再び、ブルーめがけて突撃する。 (……なんだ?) ブルーは、自らの身体の異変を感じ取っていた。 身体が軽い。腕の痛みを感じない。 今、自分に襲いかかろうとしているワルキューレ達が遅く見える。 《光の剣》にはこのような効果はない。 だが、取り敢えず今は考えることは止め、目の前のゴーレムに向き直った。 身体を感じたままに動かす。 ワルキューレの拳を回転してかわし、そのまま斬る。 次に来たワルキューレを袈裟切りにする。 そして、返す刃の逆袈裟切りを身体ごと回転して繰り返し、残りの4体を切り捨てる。 ギーシュの眼が、驚愕に見開かれた。 「わ、ワルキューレッ!」 一瞬のうちに6体のワルキューレを斬られたギーシュが、 薔薇を振って巨大な剣を作り出し、残り一体となったゴーレムに持たせる。 ブルーはそれを見て、高く飛び上がった。 自分でも信じられないぐらい、高く飛んだので驚いたが、 落ち始めると、落下の力も加えて剣を振り下ろす。 迎撃する形で剣を振り上げたワルキューレを、大剣ごと縦に真っ二つにし、 その後剣を横に一閃し、ギーシュ……の持っていた薔薇だけを散らした。 腰を抜かして尻を付いたギーシュに、 ブルーは剣を突きつけて言った。 「まだ続けるか?」 その場に居た、本人を含めた誰もがギーシュの敗北を認めた。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編